この記事の目次
- オープンイノベーションチャレンジとは
- オープンイノベーションチャレンジの4事例
- 橋梁の劣化状況の確認(橋梁劣化状況の効率的な点検の実現)(福岡市×コニカミノルタ株式会社/有限会社SXR)
- 中心市街地におけるムクドリ被害対策(浜松市×パイフォトニクス株式会社)
- 住民等から寄せられた声を効率的に分析して改善提案をする手法(名古屋市×レトリバ株式会社)
- 空撮技術等を活用した進入困難箇所の被災状況の効率的な調査・評価(京都府×株式会社NTTドコモ/株式会社ジャパン・インフラ・ウェイマーク/芝本産業株式会社/Computer System/日本大学 危機管理学部)
- 行政とスタートアップの新しい関係を創る「Urban Innovation KOBE」
- スタートアップ×自治体課題の壁と突破の仕方
- 行政と民間事業者の新たな関係性を
社会ニーズの複雑化・多様化を受けて行政サービスの向上が求められているが、行政側の予算・人員は限界を迎えている。そこで、スピード感あるイノベーションの担い手であるスタートアップ等との連携が必要となる。
内閣府は、”行政の課題”と”その課題に対する提案”を多くの企業から募り、マッチングをする新しい取組として「内閣府オープンイノベーションチャレンジ」を2017年に立ち上げた。
今回は、第2回となる「内閣府オープンイノベーションチャレンジ2019 Demo day(2021年2月10日)」をレポートしていきたいと思う。
オープンイノベーションチャレンジとは
はじめに内閣府 企画官の石井氏からオープンイノベーションチャレンジの説明がされた。
“内閣府では、各省・自治体が持つ「政策課題」を集めて、スタートアップやスタートアップと大企業等との連携にソリューションを求める。それを各省・自治体の現場に繋げるということでソリューションの実装に挑戦しています。これが「オープンイノベーションチャレンジ」の考え方です。(内閣府 企画官 石井氏の発言から抜粋)”
さらに、こうした「行政✕スタートアップ・中小企業」の取組を加速させるために「日本版SBIR制度(中小企業技術革新制度:Small Business Innovation Research)を大幅に見直す」という。
SBIRは、国の研究開発事業にスタートアップ・中小企業者等が参加する機会の増大を図り、それによって得られた研究開発成果の事業化を支援する制度だ。
2021年度は、このSBIRもオープンイノベーションチャレンジと同時並行で省庁・自治体からニーズ(テーマ・課題)を集めていく予定ということだ。
オープンイノベーションチャレンジの4事例
今回のDemo dayでは、オープンイノベーションチャレンジの4事例のピッチがなされた。どれも多くの地域にも当てはまるような課題に対応した新たなソリューションだったので、簡単に紹介しよう。
橋梁の劣化状況の確認(橋梁劣化状況の効率的な点検の実現)(福岡市×コニカミノルタ株式会社/有限会社SXR)
日本全国のインフラ老朽化により、メンテナンス費用は増大を続けている。
そのコスト抑制には既存の「事後保全」ではなく、「事前保全」を基本とした長寿命化等の対策が重要な役割を担う。 国交省の試算によれば、「事前保全」を基本とすることで2048年には47%のコスト抑制に繋がるという。
そして、その重要なインフラのひとつである全国の道路橋梁数は約70万橋あるが、2025年には、その40%以上が耐用年数を超える。
これは喫緊の課題になってくる。
そこで橋梁の「事前保全」の入口になる「点検」のスマート化によって、補強するべく橋のスクリーニング、適切な予算化、計画的な維持管理を可能にするためのコニカミノルタのソリューション「SenrigaN」の実証実験が福岡市にて行われた。
福岡市が管理する橋梁は約2000橋あり、5年に1度の法定点検のコストは膨大に掛かっていた。加えて、点検時には周辺交通に影響も出る。「ローコスト、周辺交通の影響を最小限にしたい」という課題があったからだ。
「SenrigaN」は、内部鋼材破断を磁気センシングとAIによるデータ解析で可視化することが可能であり、従来の方法に比べて、専門的スキルも必要なく、はつり作業により鋼材を痛めるリスクもない。
従来の方法で1日掛かる詳細な調査でも、3時間程度で計測が可能になり、その場で結果もすぐに分かる。実際に福岡市の田村大橋で実証実験を行い、有用性を示した。
中心市街地におけるムクドリ被害対策(浜松市×パイフォトニクス株式会社)
浜松市の市街地では、ムクドリによる糞や騒音といった鳥害に悩んでいた。
そこで浜松城のライトアップ等も行っている光技術製品を開発しているパイフォトニクス社と浜松市は、鳥害対策に「光」を用いた実証実験を行った。
従来の音や匂いなどの対策方法は、鳥たちが慣れてしまうことで一時的な効果しかない。そこで、今回はパイフォトニクス社の光パターン形成LED照明「ホロライト」で不規則な変化を持つ光の視覚的刺激を与えることで持続性を持たせたという。
実証実験では、光照射によりムクドリが一斉に飛び立つことが確認でき、効果があることが認められた。
住民等から寄せられた声を効率的に分析して改善提案をする手法(名古屋市×レトリバ株式会社)
自治体は、市民の声を広く聴く必要性がある。声は政策に対する重要なデータでもあり、これを反映することが自治体の広聴業務の肝でもある。
しかし、その声は適切に施策に反映するための分析は簡単ではない。
名古屋市では、約65,000件の問い合わせがあるが、集計まで出来ても、活用までし切れていないということが課題だった。 そこで、AIによって自動分類し、政策へ反映すべき課題を抽出しやすくするアプローチをレトリバが提案を行った。
レトリバは、昨年に河野太郎行政改革担当相が行った「縦割り110番」に集まった意見の分類にも自社の研究開発をした分析AI「YOSHINA」を提供して話題になった企業でもある。
“なに”に、”どのように”、困っているかが分かれば、効果的・効率的な施策を検討することが出来る。
今後、行政DXが進めば、政策を提供するためのインターフェイスも増加し、収集されるデータも増えていくと予想出来る。
そこで集められるデータを如何に分析し、政策そのものへの反映はもちろん、UI・UXなどの「使いやすさ、届きやすさ」まで配慮した行政サービスにアジャイル的に発展させるためにも期待出来る技術ではないだろうか。
空撮技術等を活用した進入困難箇所の被災状況の効率的な調査・評価(京都府×株式会社NTTドコモ/株式会社ジャパン・インフラ・ウェイマーク/芝本産業株式会社/Computer System/日本大学 危機管理学部)
被災した地域の復旧は、非常に大変で重要な自治体の役割のひとつだ。
その復旧作業をする際に自治体は、現地調査をし、査定設計書を作成する必要性がある。
ただ、測量は危険であり、時間も掛かる。
しかも、対応する職員数は減少傾向にある。 NTTドコモと京都市は、この課題に対応するため測量、設計/積算、査定という復旧作業のために必要な業務を一気通貫でサポートできるシステムを構築した。
現地測量をドローンで実施することで二次災害のリスクを減らし、撮影画像や3Dモデルを始め、査定に必要となる資料は、クラウドで一元管理し、効率的に受け渡しが可能になる。
実証では、トータルで71%の時間効率化を削減することを実現したという。
行政とスタートアップの新しい関係を創る「Urban Innovation KOBE」
行政✕スタートアップのオープンイノベーションは難しい。
一般的にそうした認識は多いのではないだろうか。
確かに行政団体ならではの慣習や入札ルールが、壁となることはある。しかし、それを把握し、立ち回ることで出来ることも数多くある。
そんな成功事例を多く排出していることで有名なのが「Urban Innovation KOBE」だ。神戸市から始まった本プロジェクトは、神戸市の解決したい課題を公表し、スタートアップに提案を行ってもらうというオープンイノベーションチャレンジと類似のスキームだ。
現在は、「Urban Innovation JAPAN」という全国プロジェクトに拡大し、神戸市を含めて11自治体が参画して、各地域で行政✕スタートアップの取組が進んでおり、新たな調達制度になり得ると注目されている。
イベントでは、その火付け役でもある神戸市広報戦略部長兼広報官の多名部氏から、「Urban Innovation KOBE」を行う際にとった具体的な秘訣が語られた。
上記の戦術に共通するのは「組織力学を把握し、活かす」ということだ。行政に限らず、組織ごとにトップダウンが向く、ボトムダウンが向く、キーマンは〇〇、、、と動かすための”ツボ”は変わる。
また、自分の立場、役職でも、打てる手は変わってくる。
前述の通り、神戸市の取組は「Urban Innovation JAPAN」となり、現在では11自治体が参画するまでに拡大した。その成功事例、時に失敗事例、様々なケーススタディが今後蓄積され、行政✕スタートアップの新たな試みが加速することに期待だ。
スタートアップ×自治体課題の壁と突破の仕方
さらに「スタートアップ×自治体課題の壁と突破の仕方」をテーマに、内閣府 石井氏、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー 中島氏、神戸市 多名部氏、Publink 栫井氏によるパネルディスカッションが行われた。
そのエッセンスを抽出していこう。
まず、中島氏から行政✕スタートアップのような公民共創事業に必要となる「6つのファクター」について説明された。
これについて多名部氏は、「とてもまとまっている」と評した上で「現場の温度感をトップの想いと合わせるのが難しい」とコメントした。そこが噛み合わず、失敗した取組も多くあったらしい。
石井氏は、「色んなやり方があるが、トップと現場の両方がコミットすることが非常に大切」と語った。
また、続けて「課題設定」の重要性について触れた。
“課題の設定が明確か、そして切実かは重要です。明確に困っていることがあり、現場が「なんとかしたい」という場合に新しい取組のドライブが強く働く。良い課題設定が出来るかが第一歩です。(内閣府企画官 石井氏)”
多名部氏も課題設定における”あるある”として「社会の根源的な課題を”課題”として持ってきちゃうケース」を挙げる。
“何やっても解けないやつってありますよね。それを「解きたい」という場合は、大人の目線でジャッジする必要性もある。例えば、その解けないテーマから、具体に落とし込んで解ける状態にするとか。(神戸市 多名部氏)”
限りあるリソースや手段の中で適切に「解決可能で、解決して効果のある課題」を抽出出来るかどうかは非常に重要だろう。
中島氏は、内外の巻き込みの方法について、リクルーティングや人員体制にも言及した。
“ITやプロジェクトマネジメントなど、外の専門人材を採用しているところもあると思います。有期雇用的に転職サイトで公募しているケースもありますが、多くの応募が集まっています。そうした「外の血」を混ぜていくこともひとつの手法だと思います。(神戸市広報戦略部長兼広報官の多名部氏)”
ディスカッション全体を通して、「人」と「課題設定」の重要性について触れられることが多かった。
行政と民間事業者の新たな関係性を
最後に内閣府政策統括官審議官 覚道氏から、日々接している身近な行政課題・地域課題を、技術で解決できないかという視点を持ってオープンイノベーションチャレンジなどのスキームを上手く使ってほしいとし、参加者・登壇者への謝辞で締められた。
イベントを通じて感じたのは「行政と民間事業者が新たな課題に立ち向かうためのコラボレーションの土壌は、すでに出来ている」ということだ。今回のテーマでもあったオープンイノベーションチャレンジはもちろん、SBIR制度や自治体で広がるUrban Innovation JAPANの波など、機会は徐々に増えている。
ただ、制度や仕組みがあっても行政と民間事業者が「ただ、製品を仕入れる。ただ、業務を委託する」という従来の関係性だけでなく、「共に課題を解決するために考え、新たなソリューションを生み出す」という共創関係性を築くには、まだまだ多くの挑戦が必要になるだろう。
どのような化学反応が生まれるか、今後も期待だ。
(記事制作・編集・デザイン・写真:深山 周作)