【特集】”60社から157提案”が殺到。官民連携プロジェクト「チャレンジナガノ」の驚異的な成果|チャレンジナガノDEMODAY#0

長野県庁が主催(運営事務局:株式会社Publink)する、長野県内の市町村が抱える課題を、多様な企業とのオープンイノベーションによって解決する取組おためし立地チャレンジナガノ(以下「チャレンジナガノ」という)」

総勢60社の企業から応募があり、初年度にも関わらず、多くの官民連携プロジェクトが生まれました。その成果を発表するDEMODAYが、2月14日に開催されたので、その様子をレポートしていきます。

採択賞金ゼロでも”60社から157提案”が殺到

『チャレンジナガノ』は、長野県庁が主催するオープンイノベーションプログラムだ。

本プログラムは、長野県内の市町村が持つ”地域課題・資源”と民間企業の”ソリューション・ノウハウ”をマッチングさせ、新産業の創出、雇用の増加、付加価値の高い先進的ビジネス創造を起こしながら、最終的には企業立地にまで繋げることを目的として、2021年度に始動した。

長野県庁 産業立地・IT振興課 室賀氏:事業の目的は、『先進的なビジネスを皆様と共に作り上げていきたい』ということ、できれば我々の課名が産業立地・IT振興課ですから『長野県にサテライトオフィスでも良いので、来ていただきたい』、これが我々の願いです。(チャレンジナガノDEMODAYの発言から抜粋)

※出典:チャレンジナガノ事業イメージ|PR TIMES

近年、自治体が行う公募形式のオープンイノベーションプログラムは、盛んになっている。例えば、神戸市から始まり、名前を変えて徐々に全国に拡がりつつある『Urban Innovation JAPAN(旧称:Urban Innovation KOBE)』、内閣府が主催する『内閣府オープンイノベーションチャレンジ』などが挙げられる。

企業側にとっての主な魅力は『”街”というリアルな実証フィールドを得られること』、『地域への交渉力の高い自治体という実証パートナーを得られること』、『行政との取引実績が得られること』、『実証予算がつくこと』だろう。

ただ、この『実証予算がつくこと』は、地方創生が喧伝されてから、オープンイノベーションプログラムに限らず、悪く言えば”地方に企業を呼ぶ撒餌”になってしまっているきらいもある。

「実証予算が出ている初年度だけ首都圏の企業がやって来て、お金が切れたら去っていき、何も残らなかった」という話は”地方創生あるある”として語られる。地方に降りたお金が結局首都圏に返っていく構図が多々あるからだ。

実際、サービスに対価は必要だが、あくまで『実証』はサービスの有用性や持続性などを検証する工程であり、実態的に動き始めなければ失敗ということだ。

もちろん、「挑戦した」とも言い換えられる。

だが、元来少ない予算の中で国から補助金を引っ張ってきて、後に繋がるものは何も残らず、そもそも仮説設定や対応する課題の優先度に疑問が残るプロジェクトも見受けられる。結果として『実証疲れ』のようなものが地方創生に取り組む人々には拡がり始めていると筆者は感じている。

それを踏まえてチャレンジナガノが異質な点は、『実証予算をつけること』をしなかったことにある。提供した資金は、滞在費などの既存の補助制度の範囲内であったという。

“Publink 代表 栫井氏:「採択されると300万円出る」とか、お金の支援があるので、お金が切れた瞬間にみんないなくなるっていうことも聞いたりするんですけど、このプログラムは、重点推進枠のハンズオン支援企業に選ばれても滞在費20万ぐらいしか出ないんです。(チャレンジナガノDEMODAYの発言から抜粋)”

にも関わらず、60社から157件もの提案が殺到した。加えて言えば、プログラムの広報、広告費などにも予算を殆ど掛けていない。

※出典:チャレンジナガノDEMODAY発表資料

代わりに募集を検討する企業から見て、より魅力的に映るよう、主役であり、舞台ともなる市町村の課題、そして姿勢や訴求する内容に磨き込みを掛けたという。

“Publink 栫井:これも特徴的なんですが、参加頂いている市町村さんに(本プログラムの企業募集イベントで発表するために)ベンチャー向けピッチ研修をワークショップ形式で提供したりもしました。

必ず、『官と民が上下じゃなくフラットにやる』ところがポイントになってます。

『リバースピッチ』という形式で企業さんに対して市町村からの課題と熱意を伝えるための説明会を行ったり、Slackで官と民の方々125人に入って頂いてコミュニティ化したり。。。それによって官×民の新しい繋がりだけじゃなくて、民×民の企業同士の繋がりも複数生まれていたりとかします。(チャレンジナガノDEMODAYの発言から抜粋)”

また、プログラムでは『重点推進枠』と『パートナー枠』という区分が用意された。

重点推進枠は、ハンズオン支援を行うプロジェクトとなり、パートナー枠は、市町村と企業とのマッチングの促進を支援するのみの枠となる。

全てのプロジェクトにハンズオン支援をするリソースを用意するのは容易ではない。このため、市町村の持つ課題やプロジェクトの支援体制に応じ、今年度時点から結果を出すことを目指す市町村と、中長期的な立地を目指す市町村とで区分を分けて対応する方法を取ったという。

では、実際にどのようなプロジェクトが生まれたのだろうか。

【飯田市】地域の主要産業である製造業をDXする

まず、重点推進枠に選ばれた飯田市から発表があった。

飯田市は、長野県の南に位置し、人口約10万人の地方都市だ。将来的にはリニア中央新幹線の長野県駅設置が予定され、交通アクセスが劇的に変化する可能性を秘めている。

主要産業である製造業が有名だが、ソフトウェア産業が少なく、生産効率向上や若年層の働く場としての魅力に課題を抱えている。

そこで製造業でDXを進めたいというシンプルながら、地域にとって大きなインパクトを与えるであろう題目を掲げて、ノウハウのある企業を募った。提案のあった企業のうち、製造業の生産性を飛躍的に向上させるソリューションを提供するものレボ株式会社アルム株式会社、DXにおいて常に課題視される”ヒト”の問題を解決するJOINS株式会社の3社をハンズオン支援する企業として採択した。

初年度である2021年度は、大きく踏み込みをし、翌年度以降の大きな跳躍に期待が膨らむ。

“飯田市 工業課 平沢氏:これらの事業検討を行う中で、地域企業主導の製造業DXに向けたワーキンググループの立ち上げという動きも出てくるといった効果もありました。(チャレンジナガノDEMODAYの発言から抜粋)”

▶飯田市の取組全貌は、下記リンクの全文書き起こしへ
【飯田市】地域の主要産業をアップデートする、製造業DXヘの挑戦|チャレンジナガノDEMODAY#1

【辰野町】”交通”、”ふるさと納税”、”ヘルステック”、ヒトの幸福に寄り添った産業振興

住みたい田舎ランキング全国3位であり、『プロトタイプ作りの街』として、地域を盛り上げる辰野町では、”交通”、”ふるさと納税”、”ヘルステック”をテーマに3社の企業と取組を行った。

DEMODAYで発表を行った辰野町の担当者の想いは熱く、取組を共にする企業を「共創パートナー」と呼び、主体的な姿勢が伝わってきた。

“辰野町 産業振興課 野澤氏:(辰野町では)ただ単に仕事をする場所として提供するのではなく、地元の人たちですとか、キーマンと繋がって、新たなオープンイノベーションを起こすような取組が、さまざまな場所で見られます。(チャレンジナガノDEMODAYの発言から抜粋)”

“交通”では、株式会社バイタルリードの交通システム『TAKUZO』によって、公共交通の持続性と地元タクシー会社の収益性を同時に向上する事業の準備を開始し、”ふるさと納税”では、XYZ株式会社が、地場生産者と共創し、新商品開発から販路開拓までをサポートする。

“ヘルステック”では、AP TECH株式会社が、見守りアプリ『Hachi』を用いて、健康増進を推し進めながら、将来的にはDX基盤の整備やスポーツ合宿の誘致まで、ビッグピクチャーを発表した。

▶辰野町の取組全貌は、下記リンクの全文書き起こしへ
【辰野町】『プロトタイプ作りの街』で始まる、ヒトの幸福に寄り添った産業振興|チャレンジナガノDEMODAY#2

【白馬村】世界水準の滞在型観光地を目指して、毎年300万人が訪れる白馬村の挑戦

日本でも有数のマウンテンリゾート地として知名度も高い白馬村。

直近は、新型コロナウイルスの影響を受けているが、世界水準レベルでのより過ごしやすく、より魅力的な滞在型観光地を目指している。

また、白馬村は、その本気度をこう語っている。

“白馬村 山岸氏:地域の個別計画の位置づけ、観光地経営計画に基づく取組ということになっておりますので、「事業の本気度や実効性が自治体としても高いんだよ」というところをアピールしたところであります。”(チャレンジナガノDEMODAYの発言から抜粋)

ちなみに白馬村を世界水準の滞在型観光地にするということは、副村長も公の場で語っている

そこで白馬村は今回、”お手伝い”でつながる新しい旅を提供する株式会社おてつたび、需要に基づき最適化されたオンデマンドバスの導入に向けた計画を検討するアルピコ交通株式会社SWAT Mobility Japan株式会社日本ユニシス株式会社を行い、世界水準のオールシーズンマウンテンリゾートづくりをグランピングジャパン株式会社と取り組んだ。

▶白馬村の取組全貌は、下記リンクの全文書き起こしへ
【白馬村】毎年300万人が訪れる白馬村の目指す、”ヒト”にも”環境”にも魅力的な滞在型観光地|チャレンジナガノDEMODAY#3

以上、重点推進枠の3市町村×3企業の9プロジェクトだが、パートナー枠でも化学反応は起きている。

首都圏、海外の企業からも各市町村へ熱心なアプローチが

プログラムとしては中長期的な企業立地に向けてマッチング支援を行ったパートナー枠の自治体だが、それぞれ意欲的に応募企業と向き合っている様子が、DEMODAYでは報告された。

元々、地域ブランドである「SUWA プレミアム」ブランドの発展・価値向上という課題に取り組んだ諏訪市では、首都圏・海外の12社から、熱心なアプローチがあり、ヒアリングを重ねるうちに地域課題も明瞭化され、その中から新たなプロジェクトがへと発展するべく準備を進めるている。

長野市では、スマートシティを旗印に行っていたNAGANOスマートシティコミッション(NASC)へ、16社が新たに参画することに繋がったという。

志賀高原を誇る山ノ内町では、その魅力を高めるための施策を募り、21社から申し込みがあり、リンゴ等の農産業が盛んな飯綱町は8社と面談し、減農薬、減化成肥料の農法を実証する企業が事業展開を行うことを検討中だ。

▶パートナー枠の取組全貌は下記書き起こし記事へ
【2022年度も継続】”地域の課題”と”企業のノウハウ”のマッチング多数、新たな産業振興を生み出す「チャレンジナガノ」|チャレンジナガノDEMODAY#4

来年度も「チャレンジナガノ」では、市町村・企業を大募集!

チャレンジナガノは、来年度(注:記事公開時点で、既に2022年度の公募準備が進んでいる)も実施予定であり、市町村、企業を募集したいという。

DEMODAYでは、最後に長野県庁の室賀氏が下記のように締め括った。

“長野県庁 産業立地・IT振興課 室賀氏:非常にこの半年間、取組がどんどん生まれてきていて、我々長野県としても「どんだけ処理していけばいいのか」となりながら、本当にワクワクした半年間でした。

来年度も予算については確保できそうですので、これから議会の承認を頂いて、同規模で実施をしていきたいと考えていますので、企業の皆様、ぜひ応募お願いしたいと思います。

また、市町村の皆様、無茶なテーマでも構いませんので、ぜひ検討いただいて課題出していただければと思います。(チャレンジナガノDEMODAYの発言から抜粋)”

もし、この記事を読んで、長野県の官民連携に興味が湧いた方はぜひ今後も長野の取り組みに注目して欲しい。

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・記事協力:長野県庁
・編集・ライティング・デザイン:深山 周作