複雑化、多様化する官公庁及び地方自治体が持つ「課題」。その課題を研究開発型のスタートアップ・中小企業の斬新なアイデアと繋げるのが『内閣府オープンイノベーションチャレンジ2021(略称:内閣府OIC2021)』だ。
その成果発表のためのDEMODAYが、2022年2月22日に行われた。これから日本を変えていくかもしれない行政✕スタートアップ・中小企業の取組を特集していく。
公共交通の整った都市でも悩む、移動困難者のラストワンマイル
和光市 安井氏(以下、安井):株式会社モピと和光市のマイクロロボットタクシー、自動運転へのEVを使用したモビリティサービスの取組内容を発表いたします。
安井:まず、和光市の概要と取組の背景である市の公共交通について、和光市の安井から発表させてご説明させて頂きます。
本市は、埼玉県の南西部に位置し、同じ県内の朝霞市や戸田市のほか、東京都の練馬区や板橋区との県境を越えて接しています。人口は84,000人であり、漸増傾向となっている一方で、総面積は11㎢と県内でも特にコンパクトな都市の一つといえます。交通状況については、市内の東西を国道254、南北を東京外環自動車道が貫いており、現在、国道254号和光バイパスの整備が進められています。
安井:市内唯一の鉄道駅である和光市駅は、池袋や新宿、渋谷、横浜といった主要な地域への直接のアクセスが可能となっております。バス路線については、和光市駅の市内主要拠点のほか、板橋区の成増駅や練馬区の大泉学園駅や三事業者、26路線にて運行され、それらに加え、 市内公共交通施設を市内循環バスにより周回しております。
本市では鉄道や路線バス等により、高い水準の地域公共交通ネットワークが保たれているため、現在の利便性の高いネットワークを維持して行くことを基本としています。その点で課題点がございます。
市内に狭隘道路が多く、バス等の公共交通によるアクセスが困難な地区等が点在しております。さらに高低差があり、急角度の登り坂や下り坂が多く、少々の距離であっても移動の負担が大きいです。
安井:これらの地域は昔からの居住者が多いこともあり、高齢者がバス等のモビリティを利用できない事例が増えております。近年は住民の高齢化が進んでおり、高齢化率については、17.8%と県内二番目と低い数値でありますが、人口の増加傾向に伴い、高齢者の数も増加しております。
また、高齢化の問題は住民だけでなく、公共交通における全国的な課題として、運転手の高齢化への対応があり、市においても移動における課題ととらえております。そのため、本市ではラストワンマイルの移動手段の確立を目標としております。
オープンイノベーションチャレンジでの取組は、社会実装に向けた仮想設計をゴールとして、株式会社モピの川手様をはじめ、株式会社マクニカの福田様、損害保険ジャパン株式会社の斉藤様と検討致しました。仮想設計の具体的な内容について、川手様よろしくお願いします。
徹底的にユーザーのペインに寄り添う地域交通を目指して。
株式会社モピ 川手氏(以下、川手):はい。株式会社モピの川手です。弊社は自動運転で、地方のモビリティという社会課題に挑戦する唯一のスタートアップとなります。
創業当初よりマクニカ様、損保ジャパン様に全面的に支援をしていただいて、数々の実証実験をしてまいりました。人的なもの、それから、自動運転の車の手配などをマクニカ様、それからマクニカ様と共同で損保ジャパンさんが自動運転時代の保険という商品開発をしていらっしゃいまして、それを前提に実証実験において、リスクアセスメントをしていただいております。
川手:改めまして、我々が頂いた課題ですけれども、和光市様の交通機関のアクセスが行き届かないエリアに在住する高齢者の方の生活の足。大体65歳以上の方が15,000人ぐらいいらっしゃるということです。
想定されている地域が、三ヶ所ということでございます。
川手:機能的な要求は、バス停などから距離のあるところに住まれている高齢者が、自分のタイミングで、鉄道の駅や買い物などに出かけられること。
それから免許がいらないということ。また、高齢の方がターゲットですので、スマホのアプリみたいなのは、なかなか使えないだろうと。
そういう課題提供がございました。
実は最初のステップで、我々アンケートを実施しようと思っていたんですけど、和光市様はかなり前から交通問題に対して取り組んでいらっしゃって、膨大な量のアンケートがございます。
それを分析させていただくことから始めました。
川手:特に、民生委員に対するアンケートが、高齢者の方の実態をよく表していることが分かりました。まずバスの本数が少ない。だから、移動を助けてくれる人がいないということが、高齢者の方の移動に関するペインだということがよく分かりました。
それから、交通弱者として運転できない高齢の方の他に体の不自由な方がかなりいらっしゃると。何よりも注目したのが、そういう方々はいつも一人で移動しているということがよく分かりました。
幾つか和光市様と検討させていただいたのですが、結果的に狭隘な道でも走行可能な二人乗りの超小型モビリティを使いたい。それから自宅近くに設定された乗降スポットから目的地まで直接行けるサービスが欲しい。それから乗降時には何らかの形でサポートが必要だということが分かりました。
その次のステップとして、「どうやって呼び出すんだろうか?」。
先ほど申し上げたように、スマホアプリはターゲット層から適していないと考えていました。それから乗降スポットが一番大きな問題で、例えば歩いて10分のところから自動運転となると非現実的なソリューションだと思います。
先ほど申し上げたような幾つかの課題を今後検証する必要があるということになりました。
川手:想定エリアとして、南一丁目というエリアを考えております。病院をはじめとして、高齢の方が利用される施設、それから買い物施設。こういったものが対象として挙げられると思います。
川手:乗降スポットとして、ゴミ集積場に自動運転の車が来て、お年寄りに乗っていただく。乗降に際してはサポートする必要があるということと、安全な乗降ができる環境であるということ。ゴミ集積場であれば、近くにある。
川手:今までのところ、アンケートの分析、それから先ほどの地域のエリア、どの辺を走れるかということがポイントになっておりました。
今後、これを踏まえて、短期の実証実験、それから手動運行による運転、それから自動運転というプロセスに繋げたいと思っております。
実証実験を一つの地域で長く続けることは非常にコストの問題があります。そこで同じシステムを使って、まず手動運転で実際の利用をして頂き、自動運転で続けたいと考えております。
司会:それではこちらを踏まえまして、審査委員の方からコメントを頂けますでしょうか。
地域の希望を運ぶ自動運転サービスへ。
株式会社ウィズグループ代表取締役 奥田氏(以下、奥田):このプロジェクトは今、実証の入り口に立ったばかりだと思うんですけれど、今回メンタリングして気づいたことがあります。
奥田:日本全国で自動運転の実証とか、助け合いバスみたいな実験がされているけれど、その人たちが一堂に会して、ペインだけを語る場が今まで少ないと思っていました。
私の母親が83歳で今年の初めに免許証を返還して、一週間前から咳が止まらなく、薬が買いたいけど、どこにも買いに行けないということで、私は東京からアマゾンで薬を送ったんです。
彼女達が求めているのは、すぐに早くどこかに行けるというより、何かが手に入ったり、誰かに会えるという安心感みたいなもので、速く走ったりする必要はなく、そうした安心できるバスとか車が走っている街という安心感が第一の到達地点なのかなと思いながら聞いていました。
映されていた車ですけれども、あの車に一人で閉じこもっていた老人が外に出ようとしている意志があるんだみたいな。
奥田:見た人たちが、「今日もなんかおばあちゃん、おじいちゃんが外出しているな」というような希望のストーリーを作っていく方法が一つあるなと。
そうでないと「バスより不便」とか、どんどん言い始める人がいるわけですよね。そうじゃなく、閉じこもっている人が外に出れる瞬間に立ち会ったワクワク感みたいな形の作り上げ方みたいなのが、次のステップで出来たらいいと思いながら立ち会っていました。
司会:以上で、6事例の発表の時間を終わらせて頂きます。発表者および審査委員のみなさまありがとうございました。
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(デザイン・編集:深山 周作)