【愛知県】養殖業を脅かすカモの食害を防ぐ、人にも動物にも優しい光技術|内閣府OIC2021 #4

複雑化、多様化する官公庁及び地方自治体が持つ「課題」。その課題を研究開発型のスタートアップ・中小企業の斬新なアイデアと繋げるのが『内閣府オープンイノベーションチャレンジ2021(略称:内閣府OIC2021)』だ。

その成果発表のためのDEMODAYが、2022年2月22日に行われた。これから日本を変えていくかもしれない行政✕スタートアップ・中小企業の取組を特集していく。

養殖業の天敵、ヒドリガモ

愛知県農業生産局水産課 山本氏(以下、山本): 愛知県農業生産局水産課の山本と申します。

山本: 私の方から課題設定の背景と目的について簡単に説明させて頂きます。ヒドリガモという種類のカモがおり、日本全国でノリを食害しています。

食害の状況について簡単に説明をすると、水面にカモが浮かんで、海面下に嘴を突っ込んで、養殖されている海苔を食べてしまいます。食べられた養殖網の方からは、ほとんどノリがなくなってしまって、漁場で駆除したカモの胃内をもっと調べてみると中から、大量のノリが出てきて おります。

山本:この食害を防ぐための方法としましては、大きく分けて四通りの方法がございます。

一番目として猟銃による駆除があります。この場合、効果が長続きしないということ、日中しかできないという難点がございます。

二つ目が、防除網の設置。漁場全体を網で覆ってしまう方法があるんですが、この方法を行うと効果はあるものの、仕事量がすごく増えてしまうという難点がございます。

三つ目としまして養殖網を沈めるという方法がございます。先ほど話したように、カモは水面を泳いでいて、首を水面から突っ込んで、ノリを食べるので、深いところにあるノリは食べることができません。ただ、この方法を行いますと、ノリの品質が悪化するという難点がございます。

最後に音による追い払いです。漁場で爆音を出すという方法があるんですけれども、海の上で音を出すと、その音が海面に響きわたります。そのため、近隣から苦情がくるということがございます。過去には、海の上で虎やライオンの鳴き声を流したときもあるんですけど、住民の方から海の上から獣の鳴き声がすると苦情があったということもございます。

山本:こうした課題を解決するために、愛知県では、オープンイノベーションチャレンジ制度に応募しまして、一定期間海上に設置できること、人力による操作が不要なこと、効果的にカモを追い払うことができる技術の開発を要望しました。

次はパイフォトニクスさんに説明をお願いします。

人にも動物にも優しい、”光”による食害対策

パイフォトニクス株式会社 池田氏(以下、池田):安心・安全・面白い・新しい光を用いたカモ対策というテーマで、愛知県様のニーズに対して応募させて頂きました。

池田:当社は光技術を融合する会社として、2006年に 創業しました。大学発ベンチャーとなっております。

当社の保有している技術は、ホロライトという遠方に視認性の非常に高い光のパターンを形成できる技術で、国際特許をもっております。具体的には、こちらのLEDから出た光を大きなレンズで遠方に集光することが可能で、このレンズの組み合わせにより、所定の光パターンを形成できる技術となっております。

池田:今回、愛知県の抱える課題としまして、ヒドリガモがやはり養殖ノリを食べてしまう食害という農作物の被害というのが実際あると伺っております。また、生産者の高齢化が進んでいることにより、人手をかけるのが困難であるという背景がございました。

池田:我々は、昨年4月にリリースした『ホロライト・チェッカーズ』という製品をリリースしております。こちらの製品は、チェック上の光パターンを高速に反転照射することが出来ます。鳥類というのは非常に目の応答性が高いため、刺激的なチェック上のパターンが見えるという製品になっております。

池田:この製品は、オープンイノベーションチャレンジ2019の時に、浜松市と当社が行った『ムクドリが市街地にやってくる』という鳥害対策のプロジェクトで実験をしまして、非常に効果があったため、製品化したものになります。

その実験結果を経て、昨年度、佐賀県の鹿島市さんから同じようにカモが養殖ノリを食べてしまうということでお声がかかり、実際に現地に行きまして、川原でカモがきてるところを、遠方から光照射をしました。そうすると薄っすら光のパターンが見えると、カモが反応して逃げるという実証実験を行っていて、一定の効果があるのが分かっておりました。

池田:その結果を踏まえ、今年度も実験を行っています。

実施体制でございますが、愛知県のニーズと、鹿島市のニーズが非常に近く、海の状態、波の高低差、潮の満ち引きが違うというところはあるんですが、対象としては似ているので、愛知県と鹿嶋市の間で情報共有をしながら進めて行きませんか?と、双方で情報交換をして進めることになりました。

池田:養殖ノリの食害は、大きな被害額があるようでして、今回愛知県の美浜町で実験を行いましたが、その他の自治体でも、多数の養殖ノリも生産しており、被害があると伺っております。

池田:今回、実験に際して自動で追い払うというテーマであったため、製品化しているホロライト・チェッカーズでドット状の光を照射して、現場の反応を見てみましょうと。それを見た上で、どのような形で設置出来るかを検証するという工程で進めてきました。

実際の実験の様子はこちらです。

池田:愛知県の野間漁協様に協力をいただきまして、上野間漁港というところで、実際に光を照射しました。

実際にカモが何匹かいて、光が届いたものの、全然飛ばなかったということで、「あれ、なんか様子が違うね」となりました。

鹿島市のときはカモが見える空間に光を照射して、その光に気づいてカモが逃げたんですね。

それで、カモに直接照射してもあまり効果がないということで、この環境でどうするんだろうということになりました。ただ、鹿島市の方で環境省予算を用いて、専用の装置を作っていまして、その様子を見てから進めましょうとなりました。

その鹿島市での情報をご紹介したいと思います。当社の従来の製品化したドット状の光を出すもので、もう一つは今回持参しているんですけれども、ライン上に光が出るタイプ。このようにライン状の光が出るようなものを用意をしました。

池田:ライン状にすることによって、照射範囲を広げられるものになります。さらにチカチカする光だと刺激的な光になって、周囲の影響もあるため、当社で特許出願済の高速に反転照射する機能を付与することにより、残像による周囲の影響を抑えたものになっています。

このライトを用いることで、より広範囲を一気に照射することが可能になり、ライン状の光と、チェック状の光による比較実験を行ないました。

池田:結果から言うと、漁師さん曰くこの装置がバッテリーが切れて止まった時には食べられたということで、漁師さんとしては効果があったということです。

池田:我々としては定量的な評価をしたいというところですが、まだ結果までは至っておりません。続いて愛知県で、「次の実験をしましょう」という実験調整中というところになっています。

司会:ありがとうございました。では、この発表を踏まえて、審査員の方からコメントをいただきたいと思います。

自治体間オープンイノベーションへの期待

株式会社野村総合研究所アーバンイノベーションコンサルティング部グループマネージャー徳重氏(以下、徳重)::はい、野村総研の徳重です。

徳重:この取組、私個人的に物凄く好きで、パイフォトニクスさんのホロライト・チェッカーズのソリューションが、なんとも色っぽいというか魅力的ですよね。

鳥獣被害のソリューションは、コストと作業性と機能性の追求ゲームに集中しがちなんですが、そこに面白いという概念を入れているじゃないですか。

ご覧頂いても分かる通り、人間にとって全然不快感がない。むしろ「綺麗なイルミネーションなんじゃないの?」みたいなエンターテイメント性も包含しながら、実際の鳥獣被害を良くしていく

これって「人にも優しいし、鳥獣にも、直接危害加える訳でもなくて、ノリも守られてしっかりと漁師さんたちの経済にも寄与するよ」という一粒で4度美味しいぐらいのソリューションに見えたので、とても魅力的だなと。

また、特に素晴らしいところが愛知県の課題では、似て非なる、しかし非常に似ている鹿島市の課題と連携しながら、その学びを踏まえるという自治体間オープンイノベーションもやられてるんですよね。

これはこれからどんどんやっていくべきで、それで解き方が研ぎ澄まされていくという良さと、自治体によっては予算が取れないといった事情もあると思うんですが、事業の継続性を担保するために、しっかりと実証予算が取れる団体と実証し、その中でソリューションを研ぎ澄ませていく。

まさに自治体とスタートアップ、事業会社のみならず、自治体間オープンイノベーションという文脈でも、非常に重要なことだなと感じています。

司会:それでは続きまして、農地や民家への猪接近防止技術をテーマにしたつくば市とパイフォトニクスの取組についてでございます。

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(編集・ライティング・デザイン:深山 周作)