人口約3,600の下條村が手掛ける、『下條そば』をキラーコンテンツに育むための長期戦略|チャレンジナガノ2022 DEMODAY #5

長野県が主催(運営事務局:株式会社Publink)する、長野県内の市町村が抱える課題を、多様な企業とのオープンイノベーションによって解決する取り組み「おためし立地チャレンジナガノ(以下「チャレンジナガノ」)」。

60者の企業から応募があった2021年度(チャレンジナガノ2021 DEMODAY特集はこちら)から引き続き盛況な本取り組みは、2022年度も51者から応募があり、新たに多くの官民共創プロジェクトが誕生しました。

2023年3月7日に開催された『チャレンジナガノ2022 DEMODAY』の様子をレポートしていきます。

※本記事は、原則全文書き起こしとなりますが、イベントや話者の意図が一層伝わるように、一部(事務連絡、言い淀み、繰り返しなど)編集を加えております。
※記事内の肩書などは、イベント当時のものとなります。

人口約3,600の下條村が育む『下條そば』の抱える課題

下條村役場 総務課 企画財政係 古田 氏(以下、下條村役場 古田):それではこれから南信州下條村の発表をさせていただきます。

私、総務課企画財政係の古田と申します。本日、当村の副村長 宮島も横におりますのでよろしくお願いいたします。

それでは、我々が今回チャレンジナガノで行った『奇跡の村で蕎麦産業イノベーション!』事業について説明をさせていただきます。

下條村は、長野県の南部に位置する人口3600人ぐらいの小さな村です。東京から4時間、名古屋まで2時間ぐらいの場所なんですけれども、今後リニアが開通することで、便が良くなるんじゃないかと期待しております。

下條村役場 古田:当村の特徴は、村役場の再編や財政の再建などを行いまして、子育て世代が増えたことがあり、一時期人口増加を成し遂げた奇跡の村『下條村』として15年ほど前に有名になった村になります。

下條村役場 古田:ただ、今は(先ほど申し上げた)3600人ぐらいまで人口も減っており、奇跡の村というのも過去の話になっております。

近年、下條村で力を入れているのが、そば栽培になり、そばの地域ブランド化に向けて、色々な取り組みを行っていく中でチャレンジナガノに応募させていただきました。

下條村役場 古田:そこで『下條そば』の課題として、下條そばの知名度の低さ、価値のあいまいさ、生産者の高齢化、後継者不足、連作障害による土壌の不安などがありまして、それを解決する良い手段がないかということで企業様の提案を募集をいたしました。

下條村役場 古田:下條村が提供できるものとして、下條村が新しい取り組みに前向きな姿勢であったり、小規模自治体ならではのフットワーク、あとは蕎麦の乾燥調製所、低温貯蔵庫を行政主導で整備したり、企業さんが下條村に来ていただいたときに活動拠点となるテレワーク拠点として『お試しオフィス下條』も令和3年に作りましたので、「これらも提供できます」ということをPRをさせていただきました。

結果、11社から応募がありまして、5社様と面談し、2社様と重点推進枠として一緒に事業をさせていただくことになりまして、そのうちの一社様がBlue Kettle様になります。提案内容としては微生物による土壌改良と生産物による六次産業化による付加価値の向上という提案でした。

「なぜ、下條村が一緒に取り組もう」と思ったかと言いますと、土壌改良が下條村にとって緊急性の高い課題であったこと、あとはそばの栽培方法が有機栽培なんですけれども、有機栽培と微生物による土壌改良というのは親和性が高く、土地へのリスクが低かったことが挙げられます。

さらに土のブランディングという視点から下條そばの価値を高めるきっかけになればという想いもありまして、いま一緒に事業を進めさせていただいております。

下條村役場 古田:2社目がアンテナ様になります。提案内容としては、SEO対策による情報発信力の強化、飯山市に既に支店開設済みであって、長野県中部まではある程度足を伸ばしており、下條村を起点に南部にも進出したいという企業さんの想いもありました。

アンテナ様のクラウドウェブマスターを軸とした地方のDX推進というお話もありましたし、あとは10社顧客を獲得できれば支店を開設するという内容がございました。

下條村では、そばのブランド化に近年力を入れておるんですけれども、やはり情報発信力が弱いという点が非常にあって、そういう意味でSEO対策による情報発信の強化をPRされたのが、新しい視点だったので、大変面白いなと感じました。

あとは地域全体のDXを進めていきますというのが、村だけじゃなく、地域全体っていう点からも良かったということ。あとは10社顧客獲得出来たら、支店進出しますという明確な提示が、我々にとって非常に刺さりました。

株式会社Publink 代表取締役社長 栫井 氏(以下、Publink 栫井):はい、ありがとうございます。では、アンテナさん、どうぞよろしくお願いいたします。

“奇跡の村2.0”の実現に向け、情報発信体制の整備を目指す『アンテナ』

アンテナ株式会社 代表取締役 吉井 氏(以下、アンテナ 吉井):下條村さんとの協議は、とても楽しく実りのあるものでした。まず村長さん、副村長さんはじめ意思決定フローにいる、皆さんがご参加して頂いたことと、もう一つびっくりしたのが、担当の古田さんが「そこまで言う」みたいなことを平気でおっしゃられる非常にフラットな関係で、私の自治体職員さんたちに対する既成概念が崩れるような感じで取り組みを進められたのが大きなところかなと思ってます。

下條村の下條そばで始まった議論も、何でも俎上に載せられるような環境の中で、そもそも村がしたいのが人口対策だったり、奇跡の村の再来、それから産業振興としてのそば…みたいなプライオリティの違いも非常に感じることができました。

なので、『奇跡の村2.0』と題して議論しながら、それを実現するためには情報発信体制の整備が急務であろうと結論しました。

アンテナ 吉井:その中で情報発信体制の整備は、何をしていくかというと、現在は体制、機能、それから技能的なところが欠けているだろうと。それと広報力として、私ども得意のSEO、システム構築、あとは発信機関となるであろう村や観光協会さんとか関連組織の支援、そんな形の3本立てで活動していくこととなりました。

アンテナ 吉井:本年度の取り組みとしては、まず現状分析を行った上で、新たな発信基盤の構築に向けて、アクセス解析などの調査を以て、プロジェクト全体のコンセプトを定めていこうとという形になっております。

4月以降、各組織を巻き込みながら、移住定住コンテンツとBlue Kettleさんのそばの取り組みを含めて、コンテンツを量産していくように考えております。そして、弊社も先ほどのお話通り、早期の拠点化を目指す取り組みを展開していこうと考えています。

アンテナ 吉井:重要なのは、色んな事業者さんたちの巻き込み方が大事かなと私どもも思っていまして、下條村さんだけが発信するんじゃなくて、みんなで発信を実現すること。これが弊社のスタンスですし、下條村さんにも共感された私たちの夢だと思ってます。

これを実現していくことで、地域のICT化をちゃんと進めていくということ。それからこの南信地域から、周りに波及させていくことができていければと思ってます。

下條村さんは、約3600人の村なんですけども、私どもは東京の仕事で8割回せます。なので、2割でも地元で回せれば、地元に進出していこうと考えてます。これが人口3,600人の下條村で見事成立したら、県内の色々な自治体さんでも何か勇気が出るんじゃないかなとは思っています。

アンテナ 吉井:これも下條村さんと共有している私どもの夢という形で、結果としてチャレンジナガノ発で長野県のICTの一助になれれば、このチャレンジナガノに対して私どもも恩返しできるんじゃないかなと思ってます。

Publink 栫井:ありがとうございます。では、続きましてBlue Kettleさん、お願いいたします。

“土のブランディング”から、出口戦略まで見据えた『Blue Kettle』

Blue Kettle合同会社 代表者 福士 氏(以下、Blue Kettle 福士):はじめまして、Blue Kettle合同会社の福士と申します。

今回、大きく七つの項目でお話をさせていただければと思っております。よろしくお願いいたします。

Blue Kettle 福士:弊社は、去年起業したベンチャーでございまして、主な事業といたしましては、マーケティング全般のコンサルタント業務、バイオスティミュラントを用いた農法支援、6次産業化支援を行っております。

弊社は、『アイディアを沸かせて課題を解決する』をミッションとし、戦略の立案、PRから課題解決に向けたオペレーション業務を一気通貫で行える点がセールスポイントとなっております。

続きまして、本年度の実施内容のところになります。下條村様では、大きく四つの課題を抱えておりまして、この課題解決に向けて弊社が行っている事業をベースに今回3農家様にご協力をいただき、実証実験を通じて、課題解決に向けた検証をスタートいたしました。

Blue Kettle 福士:現在、弊社では独自開発のバイオスティミュラントをベースに土の微生物を活性化させることによる土作りを起点としたノウハウを通じて、地域循環型社会への貢献を目指した活動を行っています。

弊社ではこれを『土のブランディング』と呼んでおります。この農法に弊社のマーケティングの知見をミックスして、6次産業化を見据えたビジネスモデルの構築を行い、イノベーションを起こしていきたいと考えております。

Blue Kettle 福士:この事業を通じ各産業のステークホルダーが適切な利益を享受できるビジネスモデルの構築を目指すというのが我々の目指すゴールでもあります。

その上で下條村様との取り組みの状況についてご報告いたします。

今年度の進捗状況といたしましては、そば、辛味大根、梨の三つの圃場で実証実験をスタートいたしました。まずは圃場の状況の確認、分析を行った上で弊社が提供するバイオスティミュラントを活用しまして、適切な施肥計画を立てて土壌の状態をより良い方向に改善すべく、3月より順次取り組みをスタートする予定になってます。

Blue Kettle 福士:長期的な構想といたしましては、実行中のタスクとして土のブランディングを行っており、現在調整中であるんですけども、今後の展望としては商品価値を高めるためのマーケティング支援とか、アライアンス、サプライチェーンの構築などの出口戦略を見据えた取り組みを行っていきたいと考えております。

Blue Kettle 福士:チャレンジナガノについてお話させていただきます。

市町村の強みについては、課題意識やモチベーションの高い方たちに囲まれ、スピーディーに事業の推進をすることができました。本件は我々だけではなくて、農家様のご協力が前提のある事業にもなっておりましたので、熱意のある方たちに囲まれながらプロジェクトを進められたのは非常にやりがいのある地域だと感じております。

ハンズオン支援のメリットといたしましては、毎回しっかりファシリテーションいただきまして、議題を明確にした上で議論を進めることができ、さらに客観的なご意見などをいただくことで取り組みの精度を高めていけたことです。

チャレンジナガノについては第1期よりエントリーしているんですけども、官民連携の取り組みにありがちな問題を事前に整理していただきながら進められたというのは非常にありがたく感じております。

Blue Kettle 福士:補足なんですけれども、実は弊社はチャレンジナガノ1期(2021年度)よりエントリーしておりまして、2021年より飯綱町様と取り組みを行っています。

こちらも良い結果をご報告することができました。

現在第3セクターのふるさと振興公社様と取り組みを行っておりまして、リンゴの圃場をベースに実証実験を行っております。

Blue Kettle 福士:現在こちらの圃場では、実証実験前では土壌1グラム当たりの微生物量が4億だったのに対して、5ヶ月後には7億まで増加することが出来ました。農法を活用することで微生物の量が増えて、しっかりと素地が醸成されています。

Blue Kettle 福士:そんな元気な土壌で育ったリンゴをベースに加工品を作りまして、今回クラウドファンディングを通じたテストマーケティングを3月に行うことになっています。

プラットフォームに関しましては、For Goodというプラットフォームを通じて、3月中の展開を目標にプロジェクトを進めているという状況でございます。

Blue Kettle 福士:最後になりますけども、我々は農法を活用した土のブランディングをベースに、6次産業化、就農支援、事業承継など、地方創生に向けた取り組みを目指して事業を推進しております。弊社の事業に賛同、協働いただける方を広く募集しておりますので、長野を拠点として新しいイノベーションの創出にぜひお力をお貸しください。

Publink 栫井:ありがとうございます、素晴らしい進捗だと思います。では下條村さん、進めてみていかがだったでしょうか?

10年後を見据えた仕組みづくり、コンテンツの強化

下條村役場 古田:10年後に我々は大規模な道の駅周辺の再開発を予定しておりまして、それに向けて今から動いていかなければならないという考えがあります。

下條村役場 古田:その再開発に向けた観光客、利用客確保のための仕組み作り。そして下條そばの価値の向上による道の駅で提供する目玉商品の開発。そして道の駅に来てもらうための村のみならず地域全体の情報発信、コンテンツの強化というのが課題であると考えています。

そして、その結果として関係人口および移住人口の増加による奇跡の村の復活。これを『奇跡の村Ver.2.0』を目指しましょうということをアンテナ様たちと一緒に言ってるんですけれども、これを目指して頑張っていきたいと思います。

今回、チャレンジナガノに応募してみた感想なんですけれども、ヒアリングをしてくれるので、そのヒアリングを通して、自分たち自治体の強み、弱みが明確化するというのは非常にいい試みだなと思いました。

プレゼン前に事前訓練があったことも安心感に繋がりましたし、プレゼン後に我々はハンズオン支援があったので、必ず議論にPublinkさん、長野県さんが立ち会っていただいて、議論が円滑に進んだのは大変ありがたい話でした。

下條村役場 古田:正直、今回応募するにあたって、下條村みたいな小さな村が応募しても大丈夫か不安があったんですけれども、本当に皆さんのおかげで何とかここまで来れたこと、大変感謝申し上げます。

我々の村ができたので、多分長野県の他の市町村さんができないことはないと思うので、ぜひご興味ある方は、来年度挑戦していただければと思います。どうもご清聴ありがとうございました。


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