【京都府】母親の命を救う、「産後うつ検知システム」への挑戦|内閣府OIC2021 #3

複雑化、多様化する官公庁及び地方自治体が持つ「課題」。その課題を研究開発型のスタートアップ・中小企業の斬新なアイデアと繋げるのが『内閣府オープンイノベーションチャレンジ2021(略称:内閣府OIC2021)』だ。

その成果発表のためのDEMODAYが、2022年2月22日に行われた。これから日本を変えていくかもしれない行政✕スタートアップ・中小企業の取組を特集していく。

※本記事は、原則全文書き起こしとなりますが、イベントや話者の意図が一層伝わるように、主催者の了承のもと、一部(事務連絡、言い淀み、繰り返しなど)編集を加えております。

命の危険を伴う「産後うつ」の検知しづらさ

メロディ・インターナショナル株式会社 二ノ宮氏(以下、二ノ宮):私はメロディー・インターナショナルの二ノ宮です。

私どもは京都府様からの課題を頂き、近年、社会問題化しております産後うつの発症や重症化を予防するために、『産後うつ兆候検知技術』の取組に関して発表致します。

二ノ宮:本事業はベンチャー企業である私どもメロディーインターナショナルと大企業である島津製作所の共同事業として実施させて頂きました。

まずは京都府様より課題の発表をお願いしたいと思います。

京都府 中原氏(以下、中原): 本件では京都府の子育て支援分野における課題をテーマとしております。京都府では年々低下する出生率を背景に、『子育て環境日本一』を目指して支援策の充実に努めてまいりました。

命の危険を伴う産後うつ対策もその一つとなっております。

中原:現在は妊産婦の主観に基づくエジンバラ質問票などの問診をもとにスクリーニングを行っているところですが、それだけですべてを察知できるわけではなく、その結果に関わらず発症するケースもある他、コロナで面談の機会が減り、保健師等が表情から変化に気づいて早期介入するということも難しくなってきております。

中原:そのため、本府は主観や経験能力の判断ではなく、客観的なデータから産後うつの兆候を早期に発見し、適切なサポートを早期に提供できることができる仕組みやサービスを求めており、今回その提案を募集したというところでございます。

客観的なデータで早期発見を可能にする産後うつ検知システム

メロディ・インターナショナル株式会社 二ノ宮 敬治氏(以下、二ノ宮):まず始めに皆様方とこの課題に関する解決策のイメージを共有したいと思います。

二ノ宮:現在のEPDS(エジンバラ産後うつ病質問票:Edinburgh Postnatal Depression Scale)による診断が定着していますが、定性的な側面が強くて、保健師や医師のスキルに影響されるという課題を頂いております。

ここに、より客観的な心電計測デバイスとアプリを投入すればどうかと考えました

島津製作所のウェアラブルデバイス、心電デバイスは精度が高く、感性計測システム「HuME(ヒューム)」の開発もされています。私どもはモバイル胎児心拍モニターの開発を手掛けており、心拍解析では多くの知見を得ております。

この二社でうつ検知システムを作ろうと考えました。さらに、京都大学産婦人科、熊本大学産婦人科と神経精神科を含むチームを結成しました。そして子育てNPOなどの協力を得て、お母さんの生の声をすくい上げる体制を作りました。

二ノ宮:本年度は妊産婦が置かれている現状を調査し、自治体や医療機関との連携体制をつくり、サービス開発のインプットとすること、そしてしっかりとした臨床的エビデンスに基づいたものとするため、医療機関との共同研究体制の基盤づくりを致しました。

本課題は長期スパンの取組の必要があるため、京都府様の合意を得た上で、本当に当事者に届くサービスにしたいと考えております。

まず、サービス開発の設計のためのインプットとして様々なサーベイを実施しました。

解決の鍵であり、壁となる「ヘルスケアデータの共有」

二ノ宮:最初は、当事者であるお母様にアンケートをしました。ピックアップしますと、自分自身の環境とうつに関する理解と、それから本件サービスやデバイスデータの取り扱いに対する意見を集めました。80名以上の回答を得られまして、赤ちゃん優先で自分のことは二の次になってしまいがちなこと、家族と知人意外に相談できる人が少ないこと、産後うつに関しては知っているが、よもや自分が鬱になるとは考えていないということ。

二ノ宮:それから医療機関へのデータ共有には寛容だが、行政機関へのデータ共有は抵抗感があると。

引き続き、医療機関・民間団体・自治体にアンケート、ヒアリングをしました。

医療機関では、先ほどいったEPDSでは、意図的にうつであることを回避する回答が多く、実は現状ツールとしては五分五分ではないかと。

また、保健師や臨床心理士に繋ぎたいが、忙しくて難しい。それから精神科医との連携ができるのは、大学病院ぐらいで(対応できる医療機関は)少ない。こういったデバイスは非常にあったらいいということですが、「データ連携が重要じゃないか」という意見をいただきました。

現状、京都府8自治体から、同じくEPDSで(産後うつを)発見することは非常に難しいという意見をいただいてます。また、個人情報の取り扱いや情報連携に課題を感じていると仰って頂きました。

子育てNPOからは産後だけでなく、産前からの情報、それからパートナーの協力も大切ですが、なかなか得られない環境も多くて、地域ぐるみのサポートが欲しいと。デバイスに関しては、伝えにくい気持ちの代弁として機能すると。産婦人科医や自治体の繋がりは取り組んでいるんですが、情報共有のハードルを感じていると。

二ノ宮:ここでキーワードは情報共有ということで、その後キーワードとして医療機関と自治体を交えて情報交換会を実施いたしました。

二ノ宮:リアルな産婦人科、精神科現場での取組と自治体の取組に関して伺うことができました。

掻い摘むと、多職種連携、情報の途切れ、EPDSの恣意性、それから異業種間の連携などがキーワードとしてあげられ、それぞれ単独での対応の難しさが浮き彫りになりました。

今年度は、実装にあたって、エビデンスベースの信頼できるサービスを実現するために、共同研究計画書の締結までこぎつけました。本年度、事業機関で最大の難関をクリアしたことで、サービス実現に向けた力強い地盤が完成いたしました。

二ノ宮: 以上、本年度の取組によって、事業開始当初に思い描いたサービスイメージが、大きく形となりました。

デバイスとサービスの需要は非常に高いことが分かりましたが、個人情報の取り扱い、それから医療情報の共有など、多くの課題が明らかになりました。それらはPHRなどの仕組みと連携するオープンなサービスを目指す事で解決していきます。

二ノ宮:また、早期検出のみならず、その情報や医療機関内、自治体、そしてお母さんをサポートするサービスにつなげること、それが大事であると。それから発症や重症化の予防につなげる情報の流れを作り、今までお母さんが、一人で抱えがちであった心と体の情報を見える化して繋げる、そんなテクノロジーを目指して、引き続き開発を続けていき、京都府と島津製作所と、日本発で世界に向けて広げていきたいと思っております。

本日聴講いただいている方、チームメンバーを募集しておりますので、宜しければ是非お声をかけください。本日はどうもありがとうございました。

司会:ありがとうございました。それでは、審査員の方からコメントを頂けますでしょうか。

行政サービスは、ライフステージの連続性を考慮しなくてはいけない

株式会社日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門プリンシパル 東氏(以下、東):はい、東です。

:このメロディーさんの提案に関しては、コロナ化以降、産後うつは問題になってます。その中で特に重要だったのが、ライフステージごとに連続性を持たせながら、検討すること。

今回メロディさんで色々データを取られますが、京都府や京都市、自治体とその地域でどうやって妊婦さん、もしくは生まれれくる子どもを見守っていくのかということ。

その流れの中で、PHRなどの仕組みでどのようにデータ連携していくかというところが非常に肝になりますし、いま議論されている子ども家庭庁の設置なども踏まえて、京都府全域に対して子供、子育て世代を守っていくためのアーキテクチャーを作れるのか検討できるといいのかなと思ってます。

特にこうした準公共分野といわれているデータの共有・連携の仕方には、個人情報の規制、データポータビリティの話も入ってきます。

積極的に京都府もコミットしながらやっていただくと良いものができるかなと思います。

今後、人を主語に考え、ライフステージの連続性が考慮されない行政の部局ごとに分断して考えられた政策ではなくて、京都で生まれ育つ、出て行って戻ってくるというようなライフステージに合った政策を一緒に考えて頂ければ、メロディーさんを含めて、多様な人々が集まって、ケアするような体制が出来ると思いますので、これをスタートに引き続き頑張って頂ければと思います。

司会:ありがとうございました。

続きましてノリ漁場に飛来するカモを追い払うことができる技術をテーマにした愛知県とパイフォトニクスの取組についてでございます。

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(デザイン・編集:深山 周作)