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「政府の仕事って、なんか興味ある。だけど、実際どんなもんなんだろう?」…そう思っている人は意外と多いのではないだろうか。
実際、過去に経済産業省で『空飛ぶクルマプロジェクト』の”週一官僚”採用を行った際、合計1,338名の応募があった。副業OKのポストという特殊性や政策の話題性はあれど、社会貢献性や影響力の大きい『政府の仕事』に興味を持つ人が多いことを物語っている。
一方、官公庁の”採用”や”働き方”は、オフィシャルな情報だけでは手触り感のあるイメージをすることは難しい。そして、ブラックボックス化している『官僚のリアル』は、実際働いている個人に聞かないとわからない。
その『官僚のリアル』を、現役官僚が忌憚なくディスカッションする『霞が関「非」公式採用説明会~日本一リアル?な省庁転職・就職虎の巻〜』のイベント内容から紐解いていく。
総じて『官僚のリアル』に興味のある方々には、必見の情報満載となっている。まずは、どのようなイベントであるか紹介していこう。
※文中の話者の肩書は、イベント当時のものとなります。また、発言は個人の意見であり、所属する組織に帰属するものではありません。
『霞が関「非」公式採用説明会』とは?
『霞が関「非」公式採用説明会』は、民間出身の官僚、一度霞ヶ関を出て戻ってきた官僚を中心に、様々な視点から「霞が関って、実際のところどうですか?」を深掘りするイベントだ。
目的は、内情をよく知る現役官僚(民間企業からの転職者も含む)から、オフィシャルな採用説明会ではなかなか伝えられない「リアル」を発信し、人と組織のよりよいマッチングに繋げていくことにある。
そうしたイベント趣旨もあってか、イベントの司会・ファシリテーションは、元経済産業省で且つ、現在は起業をし、官民を繋ぐ事業やコミュニティを運営して『官民双方のリアル』を良く理解しているプロジェクトK 副代表 栫井 誠一郎(かこい せいいちろう)さんが執り行った。
まずは、『イベント開催趣旨』とともに『プロジェクトKの紹介』が行われ、次に『採用説明会』らしく「国家公務員の中途採用について」を詳細に説明し、その後にパネルディスカッション形式で「仕事のリアルと魅力」「ライフプラン」「ポジティブサプライズ」について語られた。
順番に紹介していこう。
01.主催団体である『プロジェクトK』とは?
オープニングトークの後、『プロジェクトK』について、プロジェクトK代表の西山 直人(にしやま なおと)さんから紹介があった。
『プロジェクトK』は、2003年に「新しい霞ヶ関を創る若手の会」として結成された現役官僚有志団体だ。霞ヶ関の構造改革を目指し、省庁を横断した20代後半~30代の若手・中堅を中心メンバーに霞ヶ関の構造改革を訴える活動を続けている。過去には「事業仕分け」の発案も行ったという。
提言だけでなく、「具体的に変えていくこと」を重視しているのが特徴で、実際に制度や組織に影響を与えた実績がある。
その後、本日のイベントの開催背景とも言える提言について、プロジェクトK メンバーの榊原 啓(さかきばら けい)さんから説明が始まった。
プロジェクトKは、2022年に『国家公務員のパフォーマンスを最大化し、国益を最大化する聖域なき提言』を取りまとめた。提言では、上限のあるリソースを最大限にいかす「集合知の発揮」と霞が関内外の連携、人材交流の重要性について触れている。
「基本的なスタンスとして、「国家公務員の仕事を減らす」、「楽をしよう」ではなくて、どうしたら限られたリソースで最大限の効果が発揮できるか、どうやったら生産性が上がるかを念頭にして、活動を行っている」(プロジェクトK 榊原さん)
プロジェクトKには、民間企業から参加しているメンバーもおり、民間が持っているフレームワークや考え方などを活かしている。このプロジェクトKの提言を紹介している榊原さん自身も起業家であり、その専門性を発揮している。
「民間から見える景色というものが多いんじゃないか。霞が関は口下手な面も多いので、(専門とするクリエイティブディレクターのスキルを以て)こうしたら伝わるんじゃないかといったお手伝いをしています」(プロジェクトK 榊原さん)
そして、今回のイベントでは、前述した提言の流れを汲み、「霞が関への転職・霞が関からの転職」にスポットライトが当てられた。
02.中途採用で国家公務員になるには ?
次にプロジェクトK 4期 副代表の北川 由佳(きたがわ ゆか)さんから『国家公務員の中途採用について』をテーマに採用制度について説明がなされた。
基礎的な話ではあるものの、国家公務員の採用試験に関する情報は、自分で調べようとすると不安になるほど分かりづらい。北川さんは、そうした採用情報・プロセスを分かりやすく説明をしてくれた。
中途採用情報の確認方法
まず、まとまった中途採用の情報は、公務員の人事制度を司る人事院の『国家公務員試験 採用情報NAVI』に掲載されている。ここから各省庁の採用情報に一覧でアクセスすることが可能だ。
3つの試験区分とそれぞれのメリット・デメリット
試験は、大きく分けて3つの試験区分があり、常勤職員・任期付き職員の公募情報をもとに採用試験の概要が説明された。
- 人事院が行う経験者の採用試験(常勤)
- 各省が行う採用試験(常勤)
- 任期付き職員採用試験
各試験区分のメリット・デメリットは以下の通りだ。
人事院が行う経験者の採用試験(常勤)
試験のステップは、第1次試験ののち第2次試験、官庁訪問(面接)、内定となる。
例年7月ごろに応募受付が始まる。10月に第1次試験、11月初旬に第2次試験、11月半ばに合格発表があり、その後官庁訪問という流れだ。
試験の内容は、第1次でマークシートの基礎能力試験と、社会人としての経験を問われる経験論文試験。第2次は、グループディスカッションでの政策課題討議試験と人物試験と呼ばれる面接だ。
各省が行う採用試験(常勤)
試験のステップは、書類選考、面接、内定となる。
各省の採用試験は近年増加中だということだ。
「各省の採用試験は、実は最近増えています。人事院が行う試験と別に各省が行う試験があり、各省で割と自由に試験内容を設定出来るものとなっています」(プロジェクトK 副代表 北川さん)
しかも、人事院が行う採用試験よりも内定までのステップが少なく受験しやすい。各省が試験の内容も自由に設定できるので、書類選考ののち面接という上記の流れは必ずではないが、基本的に択一試験は行っていない。
内閣府の試験を例にすると、3月から4月で応募書類受付期間が設定され、4月の下旬に書類選考結果の通知。2次試験となる面接は、5月の指定する日に行われ、5月下旬に合格通知という流れだ。
必要書類は受験票と職務経歴書、小論文。小論文の内容は、内閣府の政策分野である「経済財政政策」「経済分析」「経済統計関係」「男女共同参画」などのテーマから2つを選び、1000~1500字で記載することになる。
各省の採用試験は、仕事をしながらでも比較的取り組みやすい内容だと言える。
任期付き職員採用試験
経産省の例だと、任期付き職員、非常勤職員、各府省の方の人事異動がある。カジノ管理委員会の例だと、課長補佐級の職員として弁護士資格を持った方を募集している。
前述の2つの試験区分より、『専門性を活かせるポストでの募集』が多い。
03.『官僚のリアル』の“ぶっちゃけ”をパネルディスカッション
そして、霞が関への採用試験に関する基礎的な情報のインプットの後、霞が関で働く国家公務員・官僚が個人として3名登壇し、司会者である栫井さんのファシリテーションのもと、良い話も悪い話も“ぶっちゃけ”た話を繰り広げる。
オンラインで視聴している参加者からの質問に答える場面もあり、まさに「非」公式ならではのフラットで裏表のないディスカッションとなった。
登壇者として紹介された一人目は、国土交通省の航空局航空ネットワーク部東京国際空港企画室長である忍海邊 智子(おしんべ ともこ)さん。JR東海での勤務経験がある2児の母だ。
二人目に紹介されたのは、農林水産省の課長補佐をしている佐伯 健太郎(さえき けんたろう)さん。共同通信社で記者をしていた経歴の持ち主だ。政策が発表される外側で仕事をしていたが、政策が発表される裏側(作る側)に興味を持ち、各省の採用で入省した。
最後は、内閣府宇宙開発戦略推進事務局で働いている馬場 由之(ばば よしゆき)さん。スタートアップ企業で新規事業開発や渉外の経験を持つ。新卒で国家公務員になったが、民間企業へ転職し、再度国家公務員になった珍しい経歴だ。
国家公務員への転職や就職を検討している人や、そうでない人にも興味深い内容となったので、ここではエッセンスのみの紹介にはなるが、是非見て欲しい。
テーマ01.霞が関で働くことのリアルと魅力 ~官僚の仕事の魅力って?スキルは身につく?~
官僚の仕事の魅力は、「政策立案に携われること」「形になった時の達成感」「第一線の有識者の話が聞ける」などが挙がった。
忍海邊さんは、街づくりの政策立案に携わった時、「住んでいる自治体のリーフレットにその政策のことが掲載されていて嬉しかった」というエピソードを紹介した。
「2つあると思っていて、政策立案に関われること。その政策分野に関わる第一線の有識者の話が聞けることです。(中略)凄く面白かったのが、私が住んでいる自治体のリーフレットのペーパーの中に自分が携わった政策に関するものが掲載されていて、非常に醍醐味を感じました」(忍海邊さん)
また、周りに優秀な人が多いので良い刺激になり、自分のスキルアップにつながることもあるようだ。「資料を作るスピード感などが優れている」と馬場さんは語る。
佐伯さんが勤めている農林水産省では、雑談をしていても、それぞれが時事問題を熱く語り合っているのが面白く、堅いイメージが良い意味で覆されたというエピソードもあった。
「優秀な官僚って、どういう人?」という問いには、「先を見通す力がある人」という答えが挙がった。例えば、2年後にこういう政策が必要だとか、こういうことをリサーチしておかないといけないとか、民間企業で働いていた時にはない視座のレベルで、そうした人は非常に尊敬が出来るとのことだった。
他にファシリテーターから「政策の影響力や機微な部分、大変さ」といったことを投げかけると馬場さんからは、コロナ給付金の裏話も聞けた。急に呼び出されて「給付金をやる」と聞いて、そこから帰れない日々。給付金については色々な声があったが、少しでも国民のためになったのではないかと思っているそうだ。スケジュールがタイトで、いつどのように誰に報告するのか神経を使ったが、自分の仕事が国民のためになるというのは大きなモチベーションになっているという。
チャットからは「総合職と一般職の違いは?」という質問もあった。
この質問へは、「普段仕事をしているときには違いをあまり感じない」そうだ。役割分担が違うので、人事の異動のペースや幅が違う。総合職の方が出世スピードが早いという答えもあった。
テーマ02.ライフプラン ~民間企業との収入の差は?ワークライフバランスは?~
2児の母である忍海邊さんは、こどもが1歳の時に入省。周りからは「子育てとの両立は大丈夫?」と心配された。霞が関は「不夜城」と言われているからだ。
忍海邊さんはご主人が単身赴任、ご両親は遠方に住んでいるためワンオペ育児。それでも「どうにかやってきた」という。保育園に預けながら、病児保育などのサービスに登録し、時にはテレワークをしながら子育てと両立している。
登壇者が口をそろえて国家公務員のいいところとして挙げたのは、「時間休」が取れること。家庭の事情はもちろん、仕事中のリフレッシュに時間休を使うことができる。時間休は、民間企業では制度自体がない場合が多い。
「1時間単位で時間休を取れるのは、私もびっくりして。例えば、物凄いクレーム対応をして心身が疲弊した職員が1時間の時間休を取って、日比谷公園でリフレッシュするといった使い方をしていたりして、良い制度だなって」(佐伯さん)
年収についての「ぶっちゃけ」た話もあった。佐伯さんは、年収が大幅に下がったという。農水省の事務系の総合職の中途採用は、行政の経験がなく、民間から純粋な中途で入ると、課長補佐くらいの年齢でも係長からスタート。行政職のルールにもとづいて給与が支払われるので、低いところからスタートするのだ。しかし、入省の際に収入の目安を教えてくれるので、ライフプランは立てやすいという。
馬場さんも「自分が働いていたスタートアップよりは上がった」と踏まえつつ、「時給換算だとどうなるかは分からない」とのことだ。
馬場さんの場合は、残業が多く家庭のために費やす時間が十分に取れていないようだ。小さなこどもがいるため、配偶者の理解があり感謝しているという。
リモートでできることが増えてきたとはいえ、まだまだ改善の必要があるとの意見が目立った。例えば、国会の対応。一部ではオンライン化しているが、ほとんどが対面とのことだった。
キャリアプランについては、「それぞれがいろんな道を歩もうとしている」という話に。
外からは、みんな事務次官を目指して出世レースをしているように見えるが、そうでもない。農水省の職員には、大学院に入りなおしたり、農林水産政策研究所の研究の道に進もうとしたりする人もいて、キャリアプランはさまざま。中途で入省しても、海外の大使館で働いている人や地方自治体で幹部として出向している人など、いろいろな道を歩んでいる人がいるようだ。
実際、国家公務員のキャリアが、自身のキャリアの幅を広げてくれることもある。
官と民を越境したキャリアに興味のある方は、下記の記事もご参考下さい!
■参考記事
【特集】官と民を越境する人たちを追え!
テーマ03.ポジティブサプライズ ~実際に入ってみて意外と良かった!~
入ってみて「意外と良い」と感じたこととして、「基本的にみんな親切」「男性育休やワークライフバランスへの取り組みがGOOD」「誰がどういう採用かは気にしていない」などが挙がった。
国家公務員は残業が多いイメージがあるが、「8時に出勤して17時15分に帰る、優秀な上司がいる」という話も。仕事の手を抜いているわけではなく、きちんと仕事をして決まった時間に帰っている。こういう人と仕事ができることは良いことだと感じているようだ。
各省庁によって、雰囲気は違うようで体育会系の部署もあればフラットな部署もある。しかし、「学ぶことが多い場所」という認識は登壇者の中でも共通しているようだった。
「中途とか採用区分がどうであるといったことは気にせず、チームとして与えられたミッションを達成しようというところは霞が関の良いところだと感じます」(馬場さん)
また、聞いていて面白いと感じたのは馬場さんの霞が関に出戻ったからこそ分かる「途上ではあると思いますが、昔より良くなってきている」という発言だ。一度新卒で霞が関に入り、スタートアップを経て、また戻ってきた経歴だからこそ、その比較を通して、実感出来る貴重な意見だ。
興味のある人は、まず採用情報をチェック!
今回の、霞が関「非」公式採用説明会~日本一リアル?な省庁転職・就職虎の巻〜』は、公式の説明会では聞くことができない本音トークで終始盛り上がった。
パネルディスカッションの後には、参加者とゲストでの個別トークの時間も設けられ、より深い本音トークが繰り広げられたことが想像できる。
登壇者が皆ところどころで口にしたのは、「民間企業での経験が役立っている」ということ。仕事内容はハードかもしれないが、その分やりがいもある。「社会基盤を支える政策をつくれる」、「優秀な人たちと一緒に働ける」など国家公務員として働くメリットは多い。
「民間から霞が関へ転職する人は、なんでもできるスーパーマンではない。何か強みがあれば活躍できる」という意見も出た。国家公務員の仕事に興味があるのなら、採用試験にチャレンジしてみてはどうだろうか。
まずは、気になったらどのような採用ポストがあるか、人事院の『国家公務員試験 採用情報NAVI』で調べてみて欲しい。
- 採用情報はこちらから|国家公務員試験 採用情報NAVI
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原稿協力:プロジェクトK、執筆・編集・デザイン:深山 周作