【官民越境】もやっとしている人、必見! 自分をアップデートし続ける人の考え方(後編)

前編 では、外交官からコンサルタントに転向し、現在はベンチャーキャピタルに従事している鈴木 祐介さんから自身の実体験で得てきた『知覚できる世界を最大化することの重要性と考え方』を教えていただきました。

後編では、実際にそんな鈴木さんがその考え方から『転職してみてどうだったのか?』、『現在、どんなことに取組み、何を実践しているのか』を伺ってみたいと思います。

ー 実際に外資コンサルであるマッキンゼーに移られてからはいかがでしたか。

世界が変わりましたね。いわゆる「仕事の手触り感」がすごく増した

インパクトのない仕事はマッキンゼーはしないので、常に自分の仕事が生み出すインパクトの説明責任が求められます。

例えば、成長支援であれば売上がどれだけ伸びたか、とか。

あとは、数字以上に、目の前のクライアントの皆様の変化が、インパクトそのものでした。

現場に入り込むプロジェクトも多くやったのですが、一緒に仕事させていただいた部長や課長達、更にもっと若い方々が、どんどんビジネススキルを伸ばして活躍していかれる、、、

深く、確実にインパクトを出していると感じました。

なので、求めていた通り仕事の「深さ」は確実に濃いものになったと思います

ー かなりギャップが大きそうですが、すぐに馴染みましたか?

それが、そういうインパクトを生み出せるようになるまでは、苦難の連続でした(笑)。

マッキンゼーに入って最初のチャレンジは、常に「ポジションをとれ」と言われること。

ある課題に対する意見を聞かれて、「あ~、難しいですよね、Aも妥当だし、Bも合理性はあって」とか言ってると、「いや、君の立場を聞いているのであって、評論してとは言ってないんだよね」とか言われるんです。

分析はいい。まずAかBかはっきりして!その上で判断理由も述べて」と詰められる。

外務省からマッキンゼーに来て、ベコベコに凹まされましたね(笑)

入社初日から、今までの仕事のやり方から脱却 (unlearn)して、そこから初めてマッキンゼー流を習得しろって、強く言われるんです。柔軟性が非常に求められる環境でした。

そして、業界で言えば、製造業、銀行、保険、製薬。

機能で言えば、戦略策定、マーケティング、セールス、人材育成、組織変革、工場のラインの生産性改善、、、色んな事をやってきました。

世界、視野が大きく広がりましたね。

ー それが民間に転向した後の鈴木さんが感じて、学びを得た経験のひとつなんですね。

そうですね、幅広くやったので一つ一つの専門性は比較的浅いかもしれませんが、幅広さも役に立つと思います。

国際関係論の話に戻りますが、国際関係論って「学際的 (Inter-disciplinary)」な学問って言われてるんです。法学とか経済学といったそれぞれの学問(Discipline)を深めるだけでは解けない問題を、学際的な視点から横断的に見てみようというものなんです。

私はこの考えがすごく好きで。

一つ一つの領域を深めるだけではなくて、それらを束ねて横断的に見た時にどんな世界が見えるのか。

それが私の学問的な根本にあって、それが仕事にも常に活きていると思います。

例えば、いろんな業界それぞれではなく、、、果たして日本経済全体を見渡したときの課題は何かとか、業界横断的に見ないと分からないことですよね。

ー 見渡した時に分かる課題ですか?

例えば、日本って改善が得意で、とかくボトムラインの改善にいきがちと言われますけど、大事なのはイノベーションによる係数の増大だと思っています。

『投入したインプット×係数=アウトプット』じゃないですか。

その係数、すなわち生産性、それが低いのが日本の問題なんじゃないのか。

コンサルで幅広く経験してきたことで、そういった俯瞰的に見る癖がついた感じがしますね。

なのでピボットしてきた今までのキャリアで、無駄になったことは一つもない

【大志】グローバル・ブレイン、VCの世界へ

ー マッキンゼーで世界が広がって、いまに至る訳ですがVCのお仕事を改めてお聞きしても良いでしょうか。

ベンチャーキャピタルは、将来の基幹産業のために、、、これも元コンサルっぽく3つ挙げますね(笑)

将来の基幹産業のために、種、土壌、担い手を育てていく仕事だと思っています。

ベンチャーキャピタルが育む3つの要素

将来の基幹産業というのは、世界とか日本とかが抱えている社会課題を解決していくことでマネタイズして、新しいサービスを興している企業ですよね。

そういう会社のサービスだったり、会社自体が「種」ですね。

そして、もちろん種を育てていく担い手、起業家の方々がいる。

あとは、そのサービスが活かされ、担い手が活躍するような社会環境を作っていったりとか、大きい括り方をすればエコシステムで、それが土壌。

社会課題の解決のために種、土壌、担い手が育つご支援をすることが使命でしょうか。

ー未来を創るための基幹産業を育てるのがVCの仕事ということですね。

VCは投資業がメインなので分かりづらいかもしれませんが、起業家と盛り上がって仕事から帰ったあと、0歳と4歳になる自分の子どもと一緒に遊んでいて「この子たちが小学生、もっと大きくなった時には、今日あった人たちのサービスも育って、こんな未来になっているんだろう」と、想いを馳せて寝るという仕事ですね(笑)

ー いままでのことは、どのように活きていますか。

例えばBtoBのビジネスであれば、スタートアップの顧客になる企業様の仕組みや業界構造の基本的な理解や、顧客のペインへの理解・想像力といった知見がとても重要です。

そこではマッキンゼーで色々な業界・サービスを見てきた経験が活きていて、間口広く色々な領域のスタートアップの方とお話ししやすいし、隣接領域で気にすべき点などへの感度も持てるように思います。

各領域ですごく深い知見はないかもしれない。でも、浅くても幅広く知見があれば、大体のポイントと論点は理解できると思うので、それがわかれば、あとは深く知っている人を連れて来ればよいのかな、と。

あとは、元官僚としても、霞が関の方々と共通言語で議論できることも、強みだと思います。有望なサービスがちゃんと育つように、社会全体でこれが必要だという雰囲気を創って、ルール作りをするための議論が、必要ですよね。

元官僚として、いま民間でイノベーションに携わる人間として、『 霞が関のオープンイノベーション 』にも関わっていきたいと考えています。

ー「 霞が関のオープンイノベーション 」ですか?

日本が抱える解決すべき社会課題は何で、どうしたら解決できるかという「課題意識の醸成と解決の方向性づくり」に、イノベーションの種を取り込みたいという発想です。

政策づくりの際、業界大手から個別ヒアリングを行って、課題の仮説を深め、審議会等で政策の在り方を議論することは、今までも行われています。
ですが私は、業界大手だけでなく、スタートアップ企業やNPOも参加したオープンな議論の場を設けて、そもそもの課題の洗い出しや、課題認識の共有化を図ることが、最重要だと思っています

根本課題がずれていたら、打ち手はあさっての方向に行ってしまう。
同時に、解決できない課題を追いかけても、施策につながらない。
なので、技術や社会イノベーションも交えて解決できる根本課題は何か、それを、多様なアクターで、しっかり深堀りすることが大事だと思います。

マッキンゼーで学んだ最も大事なことの一つが、課題を研ぎ澄ませることです。
つまり、根本課題が研ぎ澄まされていないと、その解決策は、真に解くべき課題、施策を必要としている人にまで、届かないんですよね。

このようなオープンな議論の場で、根本課題の研ぎ澄ましと共有化を図ること。
そして、イノベーティブな解決法のヒントを得て、場合によってはそのヒントの実証実験なども行うこと。
そして、根本課題とその解決の方向性を、政策や予算に流し込んでいただくこと。
それが、霞が関のオープンイノベーションかと思っています。
大企業のオープンイノベーションの政策/予算版ですね。

既に取り組まれている省庁やテーマもあると思いますが、それをどんどんオープンに、スピーディに促進していきたいなと思っています。

『 望ましい社会とは何か? 』という課題認識から、官も一緒に対話して、政策立案に役に立てることが増えても面白んじゃないかなと思っていて。

ただ、こうした場を作るためにも、その場を活用する上でも一番大事なことは、官も民も参加者全員が、視野と柔軟性と感性を高く維持することかと思います。世の中にそういう人が増えることで、イノベーションが加速化し、日本の将来が形成されていく根幹になると思うんですよね。

少しずつ、霞が関の外での議論っていうのは、自分のできる範囲では始めているんです。

とある役所との勉強会とか。

そういった個別の勉強会からでも、参加された官民の方々が、視野、柔軟性、感性を広げられるきっかけになったらいいなと思っています。

キャリアを自由にとらえ、幅広い経験を持った方々が、広い視野と柔軟性と感性を持って活躍される。

そして、官も民も超えて、そういう方々の視野が交錯したところで感性が共鳴するオープンイノベーションがあらゆるところで生まれていく、、、そんな世界ができたら、日本の生産性も大きく向上しそうですね。

ー とても素敵なビジョンだと思います。鈴木さんがそうした想いを持って働く上で大事にしていることがあれば教えてください。

そうですね、これは私自身の経験から官僚の後輩の皆様宛、というかむしろ昔の自分に対してのメッセージなのですが。

どうしても、一つの場所で閉鎖的な環境で激務に従事していると、徐々に視野は狭まり感性も鈍っていきがちかと思います。柔軟性も失われ、職場のルールに縛られるようになる。これって、せっかくスケールの大きい刺激的な仕事をしているのに、もったいないと思うんですよね。

そんな時でも、「自分はこういう想いで仕事をしている、こういうビジョンを持っている」という矜持を自分で持っておくことが大事だと思います。

それを持たずに、激務に従事すると、どうしても疲弊して苦しい時もある。

だけど、その矜持を維持するには、矜持を人に宣言し続けるのも大事だと思いますし、人に話すことでその矜持がどんどん強くなると思う。

ですので、多くの人に自分の想いを話すよう、いろんな人に会うべく動き出して欲しい。

あの時の自分もそういう活動をしていたら、もっと面白い外交官になれたのかなという気がしますね。

【学び】後付けでもいい。悩んだら、動いて知覚を拡げる。それで自分の”次”は見えてくる。

ー 最後に、どのようにしたら鈴木さんのように自分をアップデートし続けていけるのでしょうか。そのキャリアの軸についてお伺いさせてください。

まず、あたかもキャリアの軸が一貫しているように聞こえたかもしれないのですが、一貫しているように話しているだけです(笑)

全部後付けで整理しているだけで、行動する前に3つの要素がどうなって、、、などひとつひとつ考えていないんですよ。最後は直感です。

外務省からの転職のきっかけは、職場に届いたヘッドハンターからの速達でした。転職サービスに登録していないし、何の兆しも見せず業務に打ち込んでいたんです。申し訳ないですが「怪しいな、これ」というのが第一印象でした。といいつつ、職場で開いたときはあわてて隠しましたが(笑)

すると、追いかけるように職場のアドレスにメールが届いて。ハガキも届けば、スパイメールじゃないのかなと返信したところから、転職活動が始まった感じですね。

その会社様に紹介いただいた企業は初回面接で落ちましたけどね(笑)

一応準備して、一日インターンにも出た上で落ちたので、悔しくなって。

それで、先輩を伝って別のコンサルファームとマッキンゼーを受けて、どちらも内定をいただいたのですが、マッキンゼーの面接が純粋に楽しかったので、マッキンゼーに行きたいという思いが強くなりました。マッキンゼーに転職を決めた色々理由はありますが、一番の理由は、「もっと面白いことができそうだったから」というものです。

グローバル・ブレインへの転職も、本当にご縁でした。マッキンゼーを退職して別の会社に行こうと思っていたので、当初は全く想定していなかった選択肢でしたが、弊社の代表と面接で話して、すごく面白いことができそうだと思ったので。

悩んだら動いて、その時に面白いと思う方へ。
そうして、「 次 」が見えてくる。

それが結果的に、自身の視野、柔軟性、感性を研ぎ澄まし、知覚できる世界を最大化する方へ向かい、今の私がいるのだと思います。

(取材協力:グローバル・ブレイン株式会社、編集・取材:深山 周作、撮影:栫井 誠一郎)

※本記事は、2019年10月4日に別媒体に掲載した記事を再編集したものです。