【転換】「社会と自分のベストなポジション」。教育の官民協働に挑む元官僚のマインドセット

仕事をする多くの人は「ここが私にとって一番いい職場なのだろうか」と考えたことがあるのではないだろうか

経営の神様と呼ばれる松下幸之助さんも『適材適所』という言葉を引用し、

「人間にはそれぞれに異なる天分が与えられており、これを見出し、伸ばし存分に発揮して生きることが人間としての成功である」

と、その重要性を伝えている。
では、どのようにして自身の『適材』と『適所』を見出せば良いのか

今回は、そのヒントを探りに、総務省から転職し「ライフイズテックじゃなかったら転職することもなかったと思います」と現在の仕事への想いを語る青柳 博子さんに「なぜ、プログラミング教育を手掛けるライフイズテックに転職したのか」を取材しました。

※取材時点でのプロフィールとなります。

「人の生きづらさを取り除いてあげたい」からパブリックな領域へ

Publink 深山(以下、深山)青柳さんが最初のキャリアである総務省に入省された経緯を聞かせてください。

ライフイズテック 青柳様(以下、青柳)元々「人の生きづらさを取り除いてあげたい」という課題意識があったので、東京大学の健康科学・看護学科で、精神保健学を専攻していました。

一方で、法律にも興味があり、司法試験予備校に1年間通っていたのですが、最初の試験では落ちてしまいまして、、、そのまま次どうするか考えた際に早く社会に対して自分の力を還元していきたいという想いが強く、どこか特定の会社の事業で利益を上げるというよりは、公益に資する取組に関心があり、それならばと国家公務員を志しました 。

深山:入省されてからはいかがでしたか?

青柳:凄く大変でした(笑)

ですが、凄く色々学ぶことが多かったですね。

まず、1年目に関わったのが給与法(正式名称:一般職の職員の給与に関する法律)の改正で、ちょうど、給与制度の大きな制度改正に携わる機会に恵まれました。大きな改正なので他の制度への影響も大きく、制度間の整合性をとるという思考・制度設計もさることながら、給与の表を全部改定した後の数字が全部合っているか、読み合わせという作業を休日返上で夕方3時から深夜3時まで、12時間掛けてやる、など作業面でもかなりハードでした

そのあとは、省内の文書審査や地上デジタル放送の広報、地域活性化、独立行政法人評価といった仕事をして、最後にNISC(内閣サイバーセキュリティセンター)に出向をしました。

その中で、やりがいがあって盛り上がる瞬間がある一方で萎える瞬間もあって。。。

深山:萎える瞬間ですか?

青柳:例えば、文書のてにをはをひたすら直したり、「よし、次の年はもっと色々と発展させられるぞ」と思ったら人事異動になったり、大変なことそのものは覚悟していましたが「でも、私はこういうことに時間や体力を使いたかったんだっけ?」という想いが顔を出すんです。

一生ここで過ごすのが最適なのか、と。

そういった積年の想いと元々の「人の生きづらさを取り除きたい」という問題意識、そして自身の状況が複合的に絡み合う中で、登録していた転職サイトでライフイズテックのページを見たときに「これ凄い、これだ!」って思ったんです。

深山:求人ページを見て、そこまである一つの会社に『ピンっ!』とくる方も珍しいですね(笑)

青柳:背景として、当時小学1年生の息子がで学校になじめず、毎日「つまんない、つまんない」と言っていたんです。学童に行ってもドッジボールやみんなでやるゲームばかりで、1人で本を読んだり工作したりすることが好きだった息子は居場所がないと感じているようでした。

子どもが主体的に楽しめる場を提供できていないことがとても後ろめたい。親としてこれほど辛いことは今までに無かったです。自分のことよりも辛い。そんな中で、近所の民間の学童で、プログラミング教室の体験会に渋る息子を連れて行ったら、すごい楽しい、早く通いたいって言ってくれて。

そういう子たちを世の中にどんどん生んで行きたいっていうのがあって、ライフイズテックにも話を聞いてみようと思い、エントリーしたところ、向こうも私のような人材をまさに求めてるところで、こうなったら飛び込むしかないなと思って転職して現在、、、という感じです(笑)

深山:ベストマッチという感じですね。

青柳:実際にライフイズテックじゃなかったら転職することもなかったと思います

ライフイズテック側の当時の背景もお話しすると、弊社のプログラミング教育の事業は、中高生を対象とした教育事業と、中高生を指導する大学生(メンター)の育成を行なっていたのですが、中高生がメンターとして返ってきたり、メンターの中から起業する人材も生まれていて、とても魅力的なコミュニティができていたんです。

また、自治体からは、若年層人材の流出や既存産業の衰退という強烈な危機感を背景に、新たな企業誘致や新産業創出が求められており、こうした「IT人材育成のサイクルやコミュニティ形成をしたい」という要望が凄く増えていたんです。

だから、私のように行政機関の動きや力学、付き合い方に精通していて、”行政の事業”と”民間の事業”を繋ぐ役割が必要になっていたタイミングだったんですね。

深山:まさに適材適所、ですね。実際に青柳さんが入社してからの自治体との取組状況はいかがですか。

青柳:私が入社時点で約20自治体と連携をしていたのですが、実際に取組が凄く拡大をしていて、連携先自治体が増えるのはもちろん、総務省や経産省との実証事業も行って、今度はそれが商品化して全国に展開するフェーズに来ており、社会に『新しい教育の事業モデル』を作っている実感がありますね。

ライフイズテックの地方自治体向けサービスのWebページから抜粋

民間への転向。自治体も巻き込みプログラミング教育を全国の子どもたちへ

深山:すると、青柳さん自身の仕事はその自治体連携ということですかね。

青柳:はい、シンプルに言えば自治体営業だと理解して頂くと分かりやすいと思います。

ただ、事前営業でヒアリングをして、課題設計をして、プロポーザル方式の入札で企画提案書をつくって、、、ということはもちろんのこと、事業全体のプロジェクトマネージャーとして社内外の調整をしたり、実際に中高生が学ぶ現場で「ライフイズテック のあおさんでーす!」みたいな感じで司会進行したりすることもありますね(笑)

深山: 「それ、営業?」ってくらいめちゃくちゃカバーする範囲が広いですね(笑)

青柳:プロジェクトの具体例でいくと、茨城県の教育庁の方から「未来を担うトップクラスのプログラミング人材を育成したい」というとてもワクワクするようなお話をいただき、その時ちょうど弊社でローンチしたばかりの『テクノロジア魔法学校』というオンラインプログラミング教材も使って「オンラインとオフラインの融合」という新しい形での人材育成の提案を行い、協働事業が実現しました。

茨城県と以前実施したプログラミング・エキスパート育成事業

青柳2018年は、定員160名で選考会を開いたのですがほぼ埋まってしまいました。

そのあと、中高生が8カ月掛けて『テクノロジア魔法学校』を教材にオンライン学習をしながら、メンターがオンラインでフォローして、最終的にはゲームやWebサイトといったオリジナル作品を創るというプロジェクトで、参加した中高生の成長はもちろんのこと、県庁の方から当初の期待を超えるという評価をいただけたことが嬉しかったです。

事業としても成果が出て、2019年も継続契約に結びついています。

深山:官僚として働いていていたときと大きく働き方も変わったと思いますが、不安はなかったのでしょうか。

青柳:ありましたよ(笑)

でも、不安の中身をちゃんと見て分解してみると『やりたいことがやれるか』と『労働条件(給与・福利厚生など)』で、そのうち前者はほぼゼロだったんです。

後者についても、私の中に子どもに対しての最低限の責任として”二人いる子どものうち、一人進学させられる貯蓄をすること”という基準を引いて、夫もそれに了承してくれていたので、転職してもそれを満たせるという見通しは立てられていたので、納得感を持って転職することが出来ました。

深山転職時に自分の中に基準があるのはとても重要ですね。漠然とした『なんとなく〇〇が不安』という状態と違い、周囲も「それなら、こういうのもあるよ」とか協力しやすいですし、心の落としどころもつけやすいですから。

青柳:もうちょっと言うと、行き場のないストレスでイライラしている母親よりも、忙しくてもイキイキしながら「私は好きなことをやるから、あなたたちも好きなことをやりなさい」って言える母親でいる方が家庭としてもいいんじゃないか、っていうことも勝手に思ったんですよね。

深山:それで青柳さんはライフイズテックに入社したわけですが、官僚時代の経験が活きたことはありますか?

青柳:あらゆることが活きていると思っています。

官僚って、文書作成や段取りをもとに着実に物事を進めることや複雑な構造を理解するといったことを膨大に処理するので、そういった基礎能力は上がりますし、ハードワークなので持久力と瞬発力もつきます。

それとパブリックな取組をしているので、役人時代の人脈も活きてきますし、初対面の人でも自分の経歴を伝えることで、「少なくとも変な人ではない」という印象は持たれていると思います。。

深山:逆にギャップとかは?

青柳:会社や仕事内容そのものにはなかったです。

が、、、SlackやスプレッドシートといったITツールの使い方が全く分からなくて(笑)

もう、若い子にあれこれ聞きながら覚えていきましたね。

いまでは人に教える側になりました。

それと、良い意味での変化としては、上司やメンバーやお客さんといった仕事で関わる相手が近い距離になった、という実感があります。組織の中では自分の考えに対するフィードバクを密に受けられるコミュニケーションができるので、納得感を持って仕事が出来ていますね。

深山:実際に転職して何が得られましたか?

青柳:現場の対応力と仕事の幅が広がりましたね。

いきなり上司の代打で150人の先生方を前に登壇したかと思ったら、中高生を相手に「はい~、頑張っていこう!」みたいな話をしたり、新たな事業を企画したり、それを顧客にプレゼンをしたり、契約書も作るし、短い時間の中でどれだけインパクトの高い仕事をするか、、、という。

あと自由になりましたね。

別に職場に来なくても仕事は出来てしまうので。

ただ、組織としてはまだまだ発展途上のスタートアップであり、ルールが明確に決まっていないことも多いので、私は順応出来たので良かったですが、だからこそ主体性がない人には逆に辛いとも思います。

それに悩みも、行き場のない悩みじゃなくて、やりたいことに向かった前向きな悩みなので、体力的には大変でも精神的な負荷は少ないですね。

「教育で世界を変えていく会社」

深山:青柳さんから見て、ライフイズテックは一言でどんな会社でしょうか。

青柳「教育で世界を変えていく会社」

そこに尽きます。

深山経産省の調査でも、2030年にはIT人材が約79万人不足すると言われていますし、ライフイズテックの取組は、社会からもどんどん期待が高まる分野ですね。

青柳:なので、いろんな仲間が今後増えて欲しいと思います。

うちは『ワンピース経営』を目指していて、色々な得意分野を持った人たちと手を携えながら教育を通じて社会を変えたいと思っています。

この会社に入って感動したエピソードがいくつもあるのですが、その1つをご紹介します。

夏休みに行なっている「プログラミングキャンプ」ではカリキュラムだけでなく、会場設営も座席配置、照明、音響、動線など細部にわたって設計しています。なぜそこまでこだわるかというと、たった3日間でもITに触れて作品を作りきることで、その子の今後の人生が大きく変わる可能性があるからです。

もしかすると例えば隣の子との席の間がたった10㎝近くなるだけでストレスになって「ITってつまんない」となってしまう危険性があります。それだけはどうしても避けたい。勇気を出してきてくれた子に、最高の経験を届けるため、実際に席に座ってみて、問題がないか、この空間にいる全ての中高生が楽しめているかを中高生目線でチェックします。

そういう現場づくりへのこだわりだったり、それを実現する仕組みづくりだったり、ひとつひとつがとても大事な仕事だと思っています。

そこに共感をしてくれる方であれば、例えばファイナンスで事業基盤のグロースが出来るとか、デザインでもっとワクワクさせたいとか、想いに共感する様々なタレントを持った人がどんどんジョインしていただきたいですね。

深山:最後に、青柳さんとしてのキャリア感をお伺いして良いでしょうか。

青柳:いま、確かに「人の生きづらさを取り除きたい」という問題意識から、ライフイズテックの事業を通してより多くの子どもたちに輝ける機会を提供したい、と使命感を持って働けています。

ですが、今後、新たな使命感を覚えて、自分の力を役立てることができ、面白いと感じるフィールドがあったら、そこにすっといける自分で在りたいと思っています。

会社や組織にこだわるのではなく、『世の中にとって、自分にとって、どこにいることがベストか?』と考えて、いまはそれがライフイズテックなわけですが、これからの人生でさらに面白いことに出会えるかもしれないと思う方が楽しいなって。。。

と、いうことを人事面談で言ったら「そういうこと聞きたいんじゃないっ!」って言われました(笑)

深山:確かに(笑)

青柳:今はライフイズテックが嬉しいことにとても成長をしていて、それに合わせて体制も同時並行で整備しているところです。

大変だけどやりがいもあり、いまはそれに相当集中して安定的に回していけるよう取組んでいます。

一方で、これが安定してくると、今はEdTechという文脈の中に身をおいていますが、自分自身も色々な物事に触れて、勉強もし、会社や社会の状況も変われば、違うスタイルや可能性が出てくるかもしれない。

そういうこともちゃんと見ていきたいと思うんです。

深山突っ走ったら、緩くドリフトして色々な機会に巡り合いながら、また考えて、という感じですね。“節目”のキャリアデザイン手法として提唱される『キャリア・トランジション・モデル』を彷彿させるキャリア感ですね。

キャリア・トランジションモデルの概要図示

青柳:そうかもしれませんね。

新しい可能性が、社内で実現出来ることかもしれませんし、今見えていないもの、全く新しい分野かもしれないです。ただ、何もなく「つまらない、つまらない」ばかり言ってる人生は”本当つまらない”って思うんです。

少し大変でも、毎日刺激があって感情が動く、日々そうあれるように『世の中にとって、自分にとって、どこにいることがベストか?』を考えて、自分の人生を飽きることのないものにしていきたいですね。

(取材協力:ライフイズテック|編集・取材:深山|撮影:深山、本嶋)

※本記事は、2019年11月28日に別媒体に掲載した記事を再編集したものです。