【3分でわかる】法律が出来るまでのプロセスをおさらいする

【3分でわかる】法律が出来るまでのプロセスをおさらいする

私たちの生活やビジネスにおいて、秩序を保つためのルールである法律。昨今では、イノベーションの壁となる法律の変え方『ルールメイキング』についても注目が集まっています。

一方、「どのように法律が出来るか」をスラスラと話せる方は少ないのではないでしょうか。

本記事では、そうした基礎知識となる「法律ができるまでの基本的な流れ(立法プロセス)」をおさらいしていきます。

※本記事の情報ソースについて…本記事は信頼性の高いと考えられる内閣統制局、国会国会図書館、両議院のサイトを参考にしています。詳細は最下部の出典・引用を参照下さい。

本記事のメリット

  • 法律の『原案作成』から『施行』されるまで、どのようなプロセスがあるのか3分で分かりやすく理解できる。

【定義】法律とは

『法』は、私たちの社会生活維持のために制定または認定した強制力を持つ規則を指します。つまり、誰もが安心して暮らしていくために、国家が国民に対して権利と自由を守り、そして制限するためのものなのです。

日本では憲法の定める方式によって、国会の議決を経て制定された法を『法律』と呼びます。

原則的に法律の及ぼす効力は、憲法以下であり、政令、条約、最高裁判所規則、条例以上となります。私たちの社会において法律は「社会統制機能」、「活動促進機能」、「紛争解決機能」、「資源配分機能」といった役割を担っています。

【3分でわかる】法律が出来るまでのプロセスをおさらいする

それでは、本題となる法律ができるまでの流れを見ていきましょう。

国会で審議をする意味と三権分立

日本では、立法権・行政権・司法権と国の権力を分ける三権分立という構造を採用しています。そして、国会だけが法律を制定できる権利(立法権)を持っています。

三権分立の背景には、国の権力が一つの機関に集中すると濫用を防ぎ、国民の権利と自由を保障しようとする考え方によるものです。

法律ができるまで(立法プロセス)は、4ステップ

法律ができるまでの流れ(立法プロセス)は、4ステップに区分できます。

  1. 法律原案(法案)をつくる
  2. 国会で審議する
  3. 法律が成立する
  4. 法律が公布、施行される

それぞれ詳しく解説します。

ステップ1.法律原案をつくる

法律は原案(法案)をつくるところから始まります。この際に「誰が原案をつくるか?」でプロセスが少し変わってきます

【3分でわかる】法律が出来るまでのプロセスをおさらいする

『内閣提出法案(閣法)』と『議員立法案』とは?

前述の「誰が原案をつくるか?」という主体者には大きく2通りあります。内閣が法案をつくる『内閣提出法案(閣法)』と国会議員(衆議院及び参議院の委員会含む)が法案をつくる『議員立法案』の2つです。

内閣提出法案(閣法)が出来るまで

内閣が提出する法律案の原案の作成は、それを所管する各省庁において行われます。この際、提出まで至る流れは下記のようになっています。

  1. 各省庁は所管行政の施策目標を実現するため、必要に応じて新たな法律の制定又は既存の法律の改正若しくは廃止の方針を決めて、『第一次案』を作成する。
  2. 『第一次案』を基に関係する省庁との意見調整等を行う。この時、審議会に対する諮問または公聴会における意見聴取等を必要とする場合もある。
  3. 意見調整を経て、法律案提出の見通しがつくと、『提出用原案』を作成する。
  4. 『提出用原案』は、内閣法制局による予備審査や与党審査が行われる。現行法との整合性や立法内容に妥当性があるか等をチェックする。
  5. チェックに通った『提出用原案』は内閣官房を通じ、閣議決定されることで国会に提出される。

また、上記4の内閣法制局による予備審査では、下記視点で行われていると公表されています。ルールメイキングでは、こうした『法律をつくる側の視点』を理解することも重要です。

  • 憲法や他の現行の法制との関係、立法内容の法的妥当性
  • 立案の意図が、法文の上に正確に表現されているか
  • 条文の表現及び配列等の構成は適当であるか
  • 用字・用語について誤りはないか

議員立法が出来るまで

議員立法の原案を作成する際は、衆議院議員の場合は衆議院法制局、参議院議員の場合は参議院法制局がサポートします。審査が終わると、議員それぞれが所属する議院に法律案を提出するという流れになります。

ただし、議員立法は、発議要件(国会法第56条)が定められており、国会議員が1人で発議することはできません

発議要件は下記となります。

  • 衆議院では議員20人以上、参議院では議員10人以上の賛成。
  • 予算を伴う場合は、衆議院では議員50名、参議院では議員20名以上の賛成。
  • 衆議院においては、議員の所属する院内会派の機関承認がない場合、法案の発議は受理していない。

世界的に見ても日本の発議要件は厳格で、成立の見込みが全くない法案を排除する意義がある反面、議席の少ない小さな政党では発議が構造上難しいという側面も持っています。

作成された法案を議長へ提出する

必ず法案は、衆議院、もしくは参議院いずれからの議長に提出されます。国会議員が提出することは法律上は『発議』、内閣の場合は『提案』と言葉が区別されています。

提出された法案は、議長によって衆議院、もしくは参議院の各委員会に「付託」され、次のステップである国会での審議に移行します。

法案の提出数と成立件数

日本で成立する法案の約75.7%が内閣提出法案(閣法)という驚くような調査結果があります。

これは、2019年に公表された国立国会図書館のレポート『データで見る議会|国立国会図書館』から詳しく紐解くことが出来ます。日本、アメリカおよび欧州主要国の法案ごとの成立率は下記となります。

  • 日本(議院内閣制)|閣法:69.7%、議員立法:13.6%
  • イギリス(議院内閣制)|閣法:89.7%、議員立法:5.3%
  • ドイツ(議院内閣制)|閣法:91.3%、議員立法:29.6%
  • フランス(大統領制的議院内閣制)|閣法:40.7%、議員立法:2.2%
  • アメリカ(大統領制)|議員立法:100%

同じレポートのデータから、日本国内で成立した法案の平均内訳を見ると下記となります。

  • 成立法案数:約103件(※)|閣法:約75.7%(78件)、議員立法:約25.2%(26件)

※出典レポートで平均値に均す際、端数が発生しているものも整数表記している都合上、成立法案数の平均合計値が、各法の合計からズレていますが、繰り上げ・繰り下げの方法によるもので、本記事ではRaw Data自体には誤りがないことを確認した上で、そのまま引用しています。

※執筆時点の最新データとしては、内閣統制局の公表する第208回(2022年1~6月)の国会では成立提出数157件[閣法61件(約38.9%)、議員立法96件(約61.1%)]であり、うち成立法案数78件[閣法61件(約78.2%)、議員立法17件(約21.8%)]となります。

こうした成立率の違いには、国会に大きな影響を与える『与党の事前審査』というプロセスなどが関係すると言われています。

いずれにせよ国による政治の仕組み、発議条件、背景などによって、大きく違いがあることが分かります。こうした『誰の提出した法律が成立しやすいのか』を知ることはルールメイキングでも予備知識として持っておきましょう。

ステップ2.国会で審議する

衆議院と参議院のそれぞれに提出された法案について審議していきます。国会審議の流れは、下記4ステップです。2パターンありますが、順番が異なるだけとなっています。

【3分でわかる】法律が出来るまでのプロセスをおさらいする

■衆議院に出された法案の場合

  1. 衆議院の委員会で、趣旨説明→質疑→討論→採決
  2. 衆議院の本会議で、委員長報告→討論→採決
  3. 参議院の委員会で、趣旨説明→質疑→討論→採決
  4. 参議院の本会議で、委員長報告→討論→採決

■参議院に出された法案の場合

  1. 参議院の委員会で、趣旨説明→質疑→討論→採決
  2. 参議院の本会議で、委員長報告→討論→採決
  3. 衆議院の委員会で、趣旨説明→質疑→討論→採決
  4. 衆議院の本会議で、委員長報告→討論→採決

ここで出てくる『委員会とは10人〜50人ほどの少人数で行う会議で、『本会議とは、その院の議員全員で行う会議となります。

こうした2段階のプロセスを踏むのはまず、少人数で詰めちゃってから、みんなで確認した方が早いよねと考えることが出来ます。

■委員会についてもっと詳しく

委員会は、国会法で常に設置されることが定められている『常任委員会』と、特別の案件だけを審議する『特別委員会』に別れています。

委員は、各会派(政党が中心となって作る議院の中のグループ)の所属議員数に応じて割り当てられます。特別委員会の数は定められていませんが、常任委員会は衆議院、参議院それぞれ17置かれています。国会議員は、必ず1つ以上の常任委員会の委員になる必要(議長や閣僚は辞退可能)があります。

委員会を開くには、全委員の1/2の出席委員数(定足数)が必要となります。

趣旨説明、質疑、討論、採決という流れで進みますが、賛成と反対が同数であった場合は、委員長が決裁権を行使し可決・否決を決定します。ただ、修正案が出されている場合は、先に修正案を採決することになっています。

利害関係者や学識経験者などから意見を聴くことが必要とされた場合は「公聴会」を開きます。これは議員に限らず、国民も開催要求することが可能になっています。

審議が終了(※)すると、委員長は本会議で審査の経過と結果を報告します。これが委員長報告です。ただ、出席委員の10分の1以上の賛成がある意見は、委員長報告についで、少数意見者が本会議で報告することができます。

※委員会審議が終了していない段階でも、議院全体の求めがあった場合、委員長が中間報告をすることがあり、中間報告をもって委員会審議を打ち切り、本会議で採決することもあります。

■本会議についてもっと詳しく

本会議を開くには、総議員数の1/3の出席議員数(定足数)が必要です。

委員長報告から始まり、討論を行い、採決という流れになります。必要に応じて質疑を行う場合もあります。

ステップ3.法律が成立する

審議の結果、衆議院と参議院のいずれでも可決されれば、そこで法律が成立します。

【3分でわかる】法律が出来るまでのプロセスをおさらいする

ですが、片方の院で否決したり、審議中に国会の会期が終わることがあります。この場合、どうなるのでしょうか。

■もし、片方の院が否決した場合はどうなるの?

これには3パターンあります。

まず、1つ目は「衆議院は可決したが、参議院は否決した場合」です。この場合は、下記2つの選択肢があります。

  • 両院協議会を請求して、互いの妥協点を探る(国会法第84条)
  • 衆議院で再議決をおこない、再可決する(憲法59条)

このうち、後者の再議決を行う場合は、参議院で否決された後にもう一度衆議院に送り返され、そこで3分の2以上が賛成をすれば「可決」になります。また、衆議院で可決した法案の受領後60日以内に参議院が議決しない場合、衆議院は参議院が法案を否決したとみなすことができます。

2つ目は、「参議院で可決したが、衆議院で否決した場合」は、「否決」になります。

最後の3つ目は、「先に審議した方(衆でも参でも)が否決した場合」で、この場合はその時点で廃案となり、次の院には送られません。

■審議中に国会の会期が終わることもある?

国会には会期があり、話し合える時間は限られているため、後半から審議を始めた法案であれば、最終結論がその会期中に間に合わないことも多々あります。

基本的に、最終結果が出ないまま会期が終われば、その法案は廃止となりますが、「会期延長」や「継続審議」といった手段が取られることもあります。

衆議院の優越とは?

衆議院・参議院は、原則として同等の権限となりますが、憲法にて衆議院に優越的な権限が付与されています。

この理由は、衆議院には解散があり、参議院に比べて任期が短くなっているため、選挙を通じて国民の意思を問う機会が多くなります。そのため、参議院よりも国民の意思を反映しやすいと考えられ、これを『衆議院の優越』と言います。

衆議院の優越には3種類あります。

  1. 議決の効力における優越:法律案の議決、予算案の議決、条約の承認、内閣総理大臣の指名
  2. 権限の事項における優越:予算の先議権、内閣不信任決議、内閣信任決議
  3. 国会法上の優越:臨時国会の会期、特別国会の会期、国会の会期延長、両院協議会の請求

※『衆議院の優越』の詳細は、関連記事を近日公開予定です。

ステップ4.法律が公布、施行される

法律は、成立しただけでは効力がなく、施行するためには「法律の成立後、議院の議長から内閣を経由して、天皇へ奏上された日から30日以内に公布されなければならない」とされています。

法律の公布に当たっては、公布のための閣議決定を経た上、官報に掲載されることによって行われます。

【3分でわかる】法律が出来るまでのプロセスをおさらいする

「公布」は、成立した法律を一般に周知させて、法律が現実に発効し、作用するための「広報活動」を指します。また、法律の効力が一般的、現実的に発動し、作用することを「施行」といいます。

※公布された法律がいつから施行されるかについては、通常、その法律の附則で定められています。 

法律ができるまで(立法プロセス)をおさらい

本記事で解説した内容のポイントをおさらいします。

  • 法律は、4ステップ(1.法案をつくる→2.国会で審議する→3.法律が成立する→4法律が公布、施行される)で定められる。
  • 法律案には、「議員立法案」と、内閣が作る「内閣提出法案」がある。
  • 成立する法律案の69.7%は、「内閣提出法案」である。

立法プロセスについて更に理解する

立法プロセスについて更に理解し、ルールメイキングの知識やアプローチを考える上で役に立つサイトやWebページをご紹介します。

■国立国会図書館(https://www.ndl.go.jp※特におすすめ

国立国会図書館の役割の一部には、「立法府のブレーン」というものがあります。

そのため、立法プロセスに関する国内外調査や事例、社会課題に関する法的議論など、潤沢で良質なレポートが無料で数多く公開されており、ケーススタディや立法プロセスの力学を理解する上で非常に役立ちます。

■内閣法制局|最近の法律・条約(https://www.clb.go.jp/recent-laws

日本で成立した法律について、2014年〜現在までのバックナンバーを見ることが出来ます。どのような法律が成立しているのか知ることに役立ちます。

■国会会議録検索システム(https://kokkai.ndl.go.jp

キーワードと日付による検索しかないため、やや玄人向けになりますが、国会で話し合われた会議録を詳細に見れるので「どのような議論を経て、国会が動いているのか」を解像度高く理解することに役立ちます。

■e-Gov(https://www.e-gov.go.jp/about-site/e-gov/service.html

e-Govには、国内法令(憲法・法律・政令・勅令・府令・省令・規則)やパブリックコメント(※)を検索機能付きで網羅的に掲載されており、有用なデータベースとして役立ちます。

※パブリックコメント…公的な機関(政府、自治体など)が法令や条例などを制定しようとするときに、広く公に意見・情報・改善案などを求める手続き。

個人・企業が、法律を変えるには?

それでは、ここで視点を変えて「個人・企業が、法律を変えるには?」という話に触れましょう。

【3分でわかる】法律が出来るまでのプロセスをおさらいする

ここまで説明した通り、法律は国会で決められ、直接的に原案を作成するのは議員や官僚ということになります。逆説的に言えば、「議員や官僚に働きかけること」で原案に意見を反映したり、国会の各議員の判断へ影響を与えることに繋がります。

こうした議員や官僚に対する働きかけは、『ロビイング』や『ルールメイキング』と呼ばれており、近年多くの手法が生まれていますので、今後の記事で手法や事例についても詳細に紹介していきます。

ルールメイキングを伴う官民共創のご相談

下記フォームよりルールメイキングを伴う官民共創を推進した民間事業者の方からのご相談を無料で受け付けていますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

■参考事例

■お問い合わせ

登録して最新情報をチェック

Publingualの無料会員登録、公式Twitter公式Facebookをフォローすることで最新情報をチェック出来ます。

Publingualでは、無料会員の登録をおススメしております。無料会員は以下の会員限定サービスをご利用いただけます。

✉️ メルマガで、新着・注目の記事をお届け!
👀 すべての無料会員限定記事の閲覧が可能!

出典・引用

  • データで見る議会―欧米主要国の議会と我が国の国会―|国立国会図書館
  • 法律ができるまで|内閣法制局
  • 法律ができるまで|参議院
  • 国会について|衆議院
  • 日本の法律ができるまでの期間や流れや成立まで|All About
  • 法や規範の意義と役割|NHK

・編集・デザイン・ライティング:深山 周作