【3分解説】ポストコロナ、デジタル化、、、総裁選前に「骨太の方針2020」を読み解こう。

「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」。

それは政府の注力方針、予算編成方針を示した資料。

言い換えれば、規制緩和、予算措置、公共事業、研究支援など、「翌年の政府がチカラを入れる分野」を示している。

2020年7月17日、「経済財政運営と改革の基本方針(通称:骨太の方針)2020」が経済財政諮問会議の答申を経て、閣議決定された。この方針には、ポストコロナ時代の「新たな日常」を見据え、デジタル化や経済活動の段階的引き上げなどが盛り込まれてる。

政権が揺らぎ、総裁選が間近に迫る中、ポストコロナ時代の日本経済を左右する「骨太の方針2020」を解説と共に振り返ってみよう。

「経済財政諮問会議」と「骨太の方針」とは?

経済財政諮問会議とは、経済や財政に関する国の重要事項について、内閣総理大臣のリーダーシップを発揮できるように内閣府に設置された機関だ。

各大臣のほかに民間有識者もメンバーも構成員になっており、サントリーの代表取締役社長の新浪氏、日立製作所会長の中西氏なども参加する。

もちろん、日本銀行総裁の黒田氏も出席する。

この経済財政諮問会議は、小泉政権時の2001年度からスタートしている。そして、この会議で6月に定められる財政政策の柱となる本基本方針を通称「骨太の方針」と呼ばれる。

この方針の目的は、各省庁の利害を超えて官邸主導で改革を進めるため、政権の重要課題や翌年度予算編成の方向性を示すことにある。

では、今年の骨太の方針はどのような特徴があったのだろうか。

「骨太の方針2020」の特徴

今年の骨太の方針に外せないものがある。

そうコロナの影響だ。

経済に大きな影響を与え、いまなお見通しが立たないコロナという感染症と、どのように付き合い、越えていくべきか。

今回の基本方針は3章構成で、1章では「ポストコロナ時代の新しい未来」として国の課題や今後の全体像について触れられている。2章では「国民の生命・生活・雇用・事業を守る」として医療体制の充実や、経済活動の引き上げに向けた数値目標などが掲げられている。3章では「新たな日常の実現」として、デジタル化の促進や地域の活性化について触れられている。

また、自民党総裁選でも言及されている「デジタル政策」。これは骨太の方針に「デジタル」という単語がどれぐらい見られるかの経年推移を見ても、力点となっていることが伺える

今後の医療や経済はどうなる?

2章の今後実施する国の医療・経済施策について見ていこう。

まず、医療分野においては、検査提供能力の拡充、ワクチン開発の加速など、医療提供体制の強化を掲げている。

今後を見据えた新型コロナウイルス感染症の医療提供体制整備について(厚労省)

経済分野については、現在実施されている雇用調整助成金の手続きの簡素化や、新卒者への雇用募集機会の提供、ニーズの高い職種や成長分野へのマッチング支援などを行い、国民の生活の下支えをする方針だ。

その他にも、事業者への資金繰り支援やGo Toキャンペーンの推進などを積極的に行うとしている。

これらはすでに一部進んでいるが、課題はある。

特に大きく話題になったGo Toトラベルは、観光需要創出効果として1兆円程度を見込んでいたが、想定していた効果の4割減であると、第一生命経済研究所の永濱利廣首席エコノミストは試算している。

こうした中で大事になるのが、3章に挙げられるデジタル化だ。

コロナ後の施策|新たな日常の基盤となるデジタル化

方針の3章では、コロナ後の「新たな日常」にはデジタル化への集中投資や環境整備が必要だとし、「10年かかる改革を一気に進める」と述べている。

「デジタルニューディール」と名づけられたこの一連の取り組みの中では、単なる新技術の導入だけではなく、デジタル化の遅れや課題を検証し、関係府省庁の政策の実施状況、社会への実装状況を進捗管理することが明言されている。

また、IT基本法の全面的な見直し、マイナンバーカードのさらなる普及と使える環境の拡充など、コロナ対応に関するデジタル化の遅れを反省し、急速なデジタル化への取組を掲げている。

※詳細は今後の経済財政運営における時間軸と重点課題(2020年6月)のP4を参照

実際に1人10万円を配る「特別定額給付金」の申請では、国が推進したオンライン申請が自治体の現場で混乱を招き、111自治体が取り扱いを中止した。

オンラインに切り替えたにもかかわらず、「かえって手間が増える、支給が遅れる」という状況になり、「自動販売機の中に人がいるような張りぼてのシステム。」と評価する声もあった。

「IT後進国」という不名誉な地位から早期に脱却するためには、デジタル化産業への集中投資は必須と言えるだろう。いま、OECD加盟国の中でも日本の行政手続きのオンライン利用率は30位成人におけるICTを活用した課題解決能力は28位とかなり低い

こうした課題に対して、いままで以上に「デジタル政策」は必要となるだろう。現在の総裁選を前に有力候補である菅氏は既存のマイナンバーカードを起点にした施策の他に「デジタル庁の創設」といった組織改革も含めて訴えている。

菅官房長官 定例会見【2020年9月7日午前】の発言より抜粋

コロナ後の地方創生と社会保障

コロナによって、移住意欲が増している。

元々、移住相談件数を見ても、ここ数年右肩上がりで2019年49,401件の相談があったが、さらに学情の調べによると、緊急事態宣言前後で14.3ポイントもU・Iターンによる20代の地方転職希望者が増えているとのことだ。

骨太の方針でも、二地域居住、地方回帰に資するテレワークの推進、地方移住にもつながるサテライトオフィスの設置などを進めることを言及している。

また、二地域居住・就労が無理なく可能になるよう、兼業・副業、子育て支援の活用、地方税の納税の考え方などを明確化するとしている。

集中から分散。
ただ、聞き触りの良さに反して、この実現に向けた道程は難しい。

もっともキーになるのは、雇用だろう。
テレワークが進む中で必ずしも地方自体に雇用の場が必要とは限らないともいえる。ただ、それがどれだけ拡大するのかは未だ見えない。

こういった議論の明暗を指示したのがパソナの本社機能移転のニュースだろう。

パソナ本社(東京都)を淡路島(関西兵庫県)に移転~島流し?未来志向の生活開発??(note)

こういった地方創生における「総論OK、各論NG」な状態をこれからどう脱するかが重要になってくる。

骨太の方針2020を基に編集部にて制作

「新たな日常」を支えるためには、社会保障や格差拡大のための取り組みも重要な課題だ。

社会保障では重症化予防の取り組みを引き続き行っていくとともに、持続可能な医療体制の構築に向けても取り組むとしている。

また、ポストコロナ時代の格差拡大を防止するために、正規雇用者を30万人増やすなど具体的な目標を掲げた。

動き始めた新たな日常への一歩

今回の方針と同様に、2020年7月17日に閣議決定された「官民データ活用推進基本計画」では、請求書や領収書などのデジタル化が宣言されている。

この動きの中で、最近では請求書の完全なデジタル化に向け、政府とソフトウェア企業が協議を開始するなど、デジタル社会に向けた具体的な動きが見られるようになった。

また、2020年6月19日、国は内閣府、法務省、経済産業省の連名で法解釈についてQ&A形式の文書が公表し、民間企業や官民の取引の契約書で押印は必ずしも必要ないという見解を示している。

押印に関するQ&A(経済産業省)

きょう9月8日、総裁選の告示が行われ政策PRが出される

自民党総裁選 きょう告示 3陣営立候補へ(NHKニュース)

安倍政権の改革を推し進める「道しるべ」であった「骨太の方針」をどのように踏襲し、どのように変化するのか

見ていきたい。

経済財政運営と改革の基本方針2020(内閣府)の原文はこちらから

(記事制作:江連 良介、編集:深山 周作)


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引用・出典

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