【働き方】30~40代ビジネスパーソンの悲観的視野と展望|『人生100年時代と社会保障に関するインターネットアンケート』

コロナ禍を経て、これからの社会や私たちのキャリアは何処に向かうのか――。

コロナ前より成長するのか、少なくとも回復はするのか。
収入や仕事、年金などの社会保障はどうなっていくのか。

2020年10月、一般社団法人働き方改革コンソーシアム(CESS)の行った『人生100年時代と社会保障に関するインターネットアンケート』によると、30~40代のビジネスパーソンの65.1%が5年後の日本経済について「コロナ前の水準に回復していない」と悲観的な結果が出ている。

これをどう捉えるべきなのか。

今回、Pro PublingualでCESS理事長でもある間中 健介さんから『人生100年時代と社会保障に関するインターネットアンケート』の意識調査のポイントと展望について寄稿いただいた。

フリーランス等を経て米系コンサルティング会社勤務、衆議院議員秘書(社会保障政策に関わる)、愛・地球博広報スタッフ、電通PR等に勤務。

2007年に創薬支援ベンチャーの設立運営に参画。2008年以降、米国National Childhood Cancer Foudationが運営する小児がんポータルサイト「CureSearch」の日本版の開設運営にも取り組む。
2012年国会東京電力福島原子力発電所事故調査委員会事務局スタッフ。
2013年度から2018年度まで関西大学院大学非常勤講師。2014年より内閣官房日本経済再生総合事務局にて成長戦略の企画立案に携わる。
2017年11月、一般社団法人働き方改革コンソーシアムを設立。
 
著書に『ソーシャル・イノベーション』(関西学院大学出版会/共著)、『Under40が日本の政治を変える』(オルタナ/コラム連載)等。

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日本経済と人生100年時代を生きる私たち

2020年までの日本経済は、主要国との差は埋まっていないものの、緩やかに成長を続けてきました。

2012年11月から始まった景気拡大期間は2018年10月で終えていますが、2019年は世界経済が減速するなか、DX関連の設備投資、M&Aなどの活発な企業行動は続いており、株式市場では95社の新規上場があるなど、決して経済成長の歩みが止まっていたわけではありません

見識豊富なエコノミストから異論はあるかもしれませんが、私はそう考えます。

2010年代の後半以降、成長意欲に富む多くの企業は2020年をモメンタムとして構造改革とイノベーション加速に取り組みを続けてきました。2020年以降はそれらの企業から成果がドシドシと出てくる年となる、はずでした。

そこに直撃したのがコロナ禍――。帝国データバンクが公表している調査によると新型コロナウイルス関連倒産は全国754社(2020年11月30日時点)となっています。

ただ、コロナ禍で大打撃を受けている日本経済ですが、厳しい環境で挑戦をしてきた日本企業の底力が失われたわけではありません。中長期的には日本経済は新たな成長軌道を描いていくはずです。

と言うより、私たち自身がその希望を持って努力をしていくことが求められていると、私は思っています。

では、企業において現在進行形で中核を担っていくべき30~40代ビジネスパーソンはこれからの日本経済や社会保障についてどのように思っているのでしょうか。

「コロナ前よりも経済成長する」と思っている人は1割未満

コロナ禍の先に日本経済はどうなるのか――。

その予測を立てるのは非常に難しいですが、私たちがこの状況に”どう感じているか”を調べることは手間を掛ければ可能です。

私が代表を務める働き方改革コンソーシアム(CESS)では、10月に30~40代の就業者1,032名を対象に『人生100年時代と社会保障に関するインターネットアンケート』を実施しました。

それによると、5年後の日本経済はコロナ前の水準よりも成長する見方のポジティブな回答は合わせて8.7%に留まる一方、コロナ前の水準に回復しないという回答が40.1%、コロナ禍の状況よりも悪化するという見方のネガティブな回答が合わせて25%となりました。

私自身は自分のことを“ゴジラ松井世代”と自負しているのですが、朝日新聞では私の属する世代をロストジェネレーションと形容しており、政府では就職氷河期世代と形容しています。

バブル経済を知らず、学卒時の就職環境が厳しく、社会人になっても賃金が上がらないのに社会保険料負担は増え続けているので、可処分所得はなかなか上がりません。

もちろん、ゴジラ松井さんをはじめ、同世代には果断なチャレンジをして高い成果を上げている人たちもたくさんいますし、情熱あふれる人材もたくさんいますが、現在の30~40代のビジネスパーソンは右肩上がりの未来を語る主張には冷めた態度を取るというのが、世代の特徴の一つかもしれません。

7割以上の人が「加入している年金について把握していない」

では、社会保障に対する期待はどうでしょうか。

人生100時代においては「長い老齢期」を見据えたキャリア設計と生活設計が求められます。その老齢期において重要な社会保障である年金に関する意識を見ていきましょう。

「あなたは自分自身が高齢者になったときに受け取る年金給付額の水準がどうなるとお考えですか?」との設問には、78.2%が今より低くなるとネガティブな回答しており、高くなるとの回答は3.8%に留まりました。

なお、別の設問では、自分自身が加入している年金の種類と将来の年金給付(見込)額を把握していないという回答は合わせて70.9%となっており、「ほぼ正確に把握している」という回答は5%となっています。

公的年金給付の水準は、加入者自身の就業状況のほか、経済成長率や労働参加率によって変動しますが、政府が公表している財政検証を見る限り、給付水準の上昇は容易ではありません。

したがって、「自分が加入している年金制度の内容は把握していないけど将来の給付は下がると思う」という回答は間違いではありませんが、少なくとも、将来の年金給付(見込)額は把握しておくことが望ましいです。

給付見込額を把握しておけばそれに向けた備えができるからです。

悲観的視野から未来志向への変革を

前述のとおり、企業において現在進行形で中核を担っていくべき30~40代は成長期待を持てておらず、さらに社会保障への期待感も希薄という深刻な状況にあります。

ですが、私たちが望むと望まざるを問わず、“DX &人生100年時代”には絶え間ない変化が続き、経済と社会保障の不確実性はこれからも高まっていくことは不可避でしょう。

一方であらゆる個人にチャンスの場があり、既存の経済社会環境に捉われずに自己実現を追求することも決して難しくない時代と言い表すこともできます。

お金がなければ借りられるし、高度なスキルがなくても業務遂行を可能にしてくれる汎用的で廉価なツールはいくらでもあります。2-3名で起業した零細企業が3年後には20-30名の企業になっている例は無数にあります。現在は誰でも上場会社を経営したり、紅白歌合戦の舞台に立つことができる時代環境です。(私自身も紅白の舞台にチャレンジしていきたいです笑)

30~40代の働き手が将来に期待を持ち、様々なチャレンジに取り組めるようになるためにも、政治・行政には成長戦略をこれまでよりも強力に推進することを求める必要があります。政府はデジタル化、規制改革、競争政策加速などを次々と打ち出していますが、それらの取り組みが本当に産業界・働き手の努力を喚起するためには、成長への高いベンチマークの設定と、国民が成長を受容できるような首尾一貫したメッセージが不可欠です。

年率1%未満の成長率にとどまっていた2010年代の状況とは根本的に異なるレベルでの戦略実行がなければ、働き手はこの国への期待を失います。

そして、働き手自身も、自己否定を伴う改革に取り組まなければなりません。政治・行政に対してこれまでにない水準・スピードで成長戦略を実行させるには、私たち働き手から未来志向の様々なチャレンジが生まれて、変革のエネルギーとなる必要があります。リスクを取ってチャレンジをする働き手が、組織のなかで、あるいは社会に対して、率先して新しい価値を示していかなければなりません。

当団体が行なった調査からはその方向には程遠い状況が示されており、低成長が再生産されてしまう懸念があります。未来を担う働き手である私たち自身が、成長戦略を通した未来構築に積極的に参加する必要がある――。

そのことを広く呼びかけたいです。

(記事制作:間中 健介(CESS理事長、慶應義塾大学SFC研究所上席所員)、編集・デザイン:深山 周作)

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