“素材”の選び方にあらわれる、私たちの大事なもの

あなたの着るその服が環境破壊をしている」と言われてピンと来るだろうか。
イメージはしにくい、がその影響は深刻だ。

毎年の衣料品廃棄量9200万トン、CO2排出量は石油産業に次ぐ第2位。他にも主要な材料である綿をつくる過程で使われる農薬は環境汚染と健康被害を現地農家にもたらしている。

メーカーの問題と押し付けるのは簡単だ。
実際に彼らの影響や責任は大きい。

しかし、それだけでもない。
それを選び、使う私たちも当事者だ。

そんな状況に警鐘を鳴らすように、とあるアパレルブランドがこんなメッセージを打ち出した。

「わたしたちが選んだことのひとつひとつが、わたしたち自身を形どっている。」

心地よく、スッと語りかけてくる言葉。
自分の幸福も、他人の幸福も、一緒に考えて行動することの尊さ。

それを訴え、体現したのがKAPOK KNOT(カポックノット)だ。
彼らの実施したクラウドファンディングは達成率300%を超える1700万円以上の出資額を集め、多くの共感を得た。

言葉に押し込めれば「循環型社会」「エシカル消費」。

ただ、流行り言葉をなぞるだけでなく、その下地にある「つくり手」、「えらび手」の感情や想いが産業、社会を形作っていることを考えていくことが重要ではないだろうか。

今回は、KAPOK KNOTを立ち上げた深井さんに「循環型社会の可能性」をお伺いする。

「カポック」がつくる、循環する社会

――「カポック」とは、聞き馴染みのない素材ですが、どのような素材なのでしょう。

KAPOK KNOT 深井さん(以下、深井):カポックは、高機能で環境にもヒトにも優しい素材です。
主に東南アジアに自生しています。

このカポックを使ったD2Cアパレルブランドが私たち『KAPOK KNOT』です。
そのメリットは「軽くて暖かい」、「CO2排出量が少ない」、「1つの木から多く生産出来る」、「動物を殺さなくていい」ということです。

写真:KAPOK KNOT Webサイトより

深井:しかも、カポックが用いるのは木になる『実だけ』なので、森林伐採もする必要がなく、生産しているインドネシア現地の環境負荷もない。

むしろ、植樹を促進します

私たちは「Farm to Fashion」を掲げ、原料の調達からお手元に届くまでのプロセスを大切にしています。

アパレル産業の従来的な下請け、孫請けではなく、現地の生産農家、工場に足を運び、独自のサプライチェーンを築き、過重労働や低賃金といった「誰かにシワ寄せを起こす」ことのないよう最大限の配慮を尽くしています

――そんなに良い素材なら、なぜいままで使われて来なかったのでしょうか。例えば、希少性が高いとか。

深井:希少性は、それほどないです(笑)
実はいまも「売るほど大量にあるから、もっと買ってくれ」と現地から言われています。

なので、むしろ私たち自身の商品開発を急いでいますね。
衣服のバラエティを増やすだけでなく、カポックの繊維特性を用いた様々な開発を行っています。

例えば、いまモーリシャスが連日ニュースになっていますが、カポックは生分解性のある吸油材としても使えます。木材パルプなどと違い、森林伐採もしません。

――すると別の課題があったのでしょうか。

深井 はい、カポックは加工が難しいんです。
繊維が短くて軽い、だから繊維が絡みにくいんです。

私たちは旭化成と技術開発を行い、「エシカルダウンカポック™」というシートにすることで、商品化が可能になりました。

写真:KAPOK KNOT Webサイトより(エシカルダウンカポック™)

このシートの独自技術に併せて、インドネシア現地の生産者や領事館との強い繋がりや独自の品質基準が私たちの強みです。

深井:また、カポックの需要が増えれば増えるほど、東南アジアでの雇用創出や緑化、さらには森林保全のサイクルが生まれることになります。

そのため今後、このシート自体を第三者へ販売する事業も立ち上げ、カポックを軸にした持続可能なエコシステムの輪を拡げていく予定です。

写真:KAPOK KNOT Webサイトより(農園を視察する深井さん。カポックをとりまく産業はインドネシアで重要な位置を占める)

課題だらけのアパレル産業

――深井さんはなぜそこまでサステナビリティを意識するのでしょうか。

深井:特別な契機があったわけではなく「社会性と事業性を両立するのは”当たり前”」だと思っていました。

ただ、社会に出ると意外とそうではないと気付きました。ご存知の通りアパレルは超大量生産、超大量消費です。

CO2排出量は石油産業に次ぐ2位で、生産工程においても過重労働、低賃金、森林伐採を見て見ぬふりをしてきました。

出所:Global Fashion Agenda and The Boston Consulting Group, Inc. (2017), Pulse of the Fashion Industry

深井:そうした現実を目の当たりにした時に「全く違うビジネススキームが必要だ」と思いました。

「サステナビリティへの参加コストをゼロにする」

深井:ただ、「木を切らない、生産者にシワ寄せを生まない」といった社会性だけを訴えても、それは持続性がないと思っています。

――社会性だけでは持続性がない、ですか。

深井:大学の実習の一環で、宮古島の福祉施設に毎年お伺いしていたんです。
そこで障がいを持った方々がつくった商品を売るためのマーケティングについてお手伝いをしていました。

そこの施設長に言われて印象的だったのが「障がいのある方がつくったということではなく、売れるようにしたい」という言葉です。

「世のため、人のため」という社会性は大事です。ただ、それだけで永く続くか、大きく広がるかというと、そうではありません。

社会性も事業性も両立して、きちんとユーザーに選ばれることが重要なんだと学びました。

――つくる側もえらぶ側も「フラットな関係の中での持続性」が重要なんですね。

深井:そう思っています。

私たちは、KAPOK KNOTを通じて「サステナブルへの参加コストをゼロにする」ことを目指しています。

何かしら我慢や無理をするのでは、持続的な循環は生まれにくく、広がりにくいと思っています。

話を少し拡げると、価値観が多様化し、マイノリティが多く生まれ、認知されていく中で、人々が互いに理解し、共存するために「参加コストをゼロにする」ことが多くの分野で鍵になると私は考えています。

写真:KAPOK KNOT Webサイトより(ステンカラーコート-Unisex)

国ごとに刺さるメッセージは異なる

――今後どのような展開をしていく予定ですか。

深井:まず、先ほど伝えたように商品開発と「エシカルダウンカポック™」の販売事業。
ちなみに商品開発でいうと、クラウドファンディングの第二弾を開始(※)しています。

※開始1週間で800%以上を達成した。

クラファンは、2020年10月30日までなので気になる方は上記画像をクリックしてアクセス

深井:そして海外展開

私の起業を後押ししてくれたひとつに「始動プロジェクト(※)」があります。

※経済産業省が実施するイノベーター育成プログラム。選抜メンバーは、シリコンバレーでアクセラレーションプログラムにも参加できる。

そこで米国展開支援などを行っているbtraxのCEOであるBrandonから「始動で100個の事業を見たが、カポックがNo.1だ!!」と評価され、その縁もあって米国展開を一緒に進めています。

深井:経産省からレンタル移籍で来てくれた方も加わり、海外D2C事業を加速していきます。

――日本と海外では売り方も変わりそうですね。

深井:国によって訴えるべきストーリーは異なりますね。そのストーリーをどのように伝えるかを非常に重視しています。

アメリカやヨーロッパに比べ、日本はまだサステナビリティへの対応は遅いです。

なので、今年の1月に行った購入型クラウドファンディングでも意識的に「機能、デザイン、サステナビリティ」の順に謳っていました。

――先ほどの「サステナビリティへの参加コストをゼロにする」という観点ですね。

深井:はい、「社会にも、自分にもためになる」というところに支持を頂き、第一弾のクラウドファンディングには総額1,700万円以上が集まりました。

出典:Makuakeでの第一弾クラウドファンディングページより

深井:一方で、アメリカではシンプルに「サステナビリティ」を推していく予定です。

例えば、アメリカではSAVE THE DUCKという動物保護の観点でつくられたダウンなどがハイエンドストアに並び、60万着以上売れています。

カリフォルニアでも「新しい毛皮製品、動物由来のものを使うのは禁止」と条例になっています。
そうした土壌が出来ている。

なので、ナチュラル、アニマルフリーという訴求できちんと伝えていこうと考えています。
今後、SDGsやエシカル消費が盛んなヨーロッパにも、ルートをつくって展開をしたいと考えています。

循環が”前提”の社会

――実際に、KAPOK KNOTを通じて、商品を買う側の変化も実感しますか。

深井:それは確実に起きていると思います。

クラウドファンディングの際も「社会性、利他性」といったところがウケていて、機能性がそれを後押するようになったと感じています。

そこで重要なのは、繰り返しになりますがストーリーをきちんと伝えることですね。

――VCもそうした観点を評価するところが増えている印象です。ちなみに、そうした社会性、事業性を両立する上でもっとも難しいと感じるところはなんですか。

深井:「”両立出来ている”という評価をどう下すか?」は常に難しい。

「これで社会性も顧客提供価値もバランスがとれた」とロジックで考えることも出来ますが、最終的に市場がどう反応するかはそれぞれの主観です。

なので、最終的に市場に投入してみないと分からないですし、常に考え続ける必要があります。

――「社会性」を無視すれば、シワ寄せを生んででも「安くて、高機能」を追求すればいいですが、バランスを取り始めると一気に複雑性が増しますね。それは「いままでと異なるゲーム」だと感じます。

深井:他にも、メッセージの伝わり方も気を配らなくてはいけません。

例えば「深井さん、アニマルフリーを謳っているということは動物食べないんですよね?」と言われるかもしれません。

ですが、私たちが本当に伝えたいのは「無理なくサステナビリティに参加できる仕組みづくりをしたい」ということで、それが結果的に多くの人を巻き込んでいくことに繋がると信じています。

それが”持続的な取組”を持続的に広げることだと思います。

――”持続的な取組”を持続的に広げる、とても大事なことだと思います。

深井:「サステナビリティへの参加コストをゼロにする」というのも、先達となる企業含め、近しい想いの事業者は増えてきていると感じます。

これから当たり前のように持続性や社会性が評価される時代になるでしょう。

でも、それは一人の大きな人や企業では変わらない。色々な人が、色々な文脈、色々な志で継続的に取組むことで世の中は変わっていく。

私たちもそのムーブメントをつくる一つになりたいと思っています。

写真:KAPOK KNOT Webサイトより(収益の一部で農園にカポックを植樹する深井さん)

(取材:唐津 勇作・深山 周作、記事制作・編集・デザイン:深山 周作)


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