【3分解説】政策は、ネット中傷の抑止力になるか。

SNSは、私の日常の欠かせないツールとなっている。
SNSは、多くのユーザーにとって「ひとつの社会」であり、新しい人間関係の形だ。

驚くべきことにSNSの平均利用時間は67.1分にのぼると言われており、スマートフォンの平均利用時間の1/2にまで及んでいる。

著名人の日常から、友人との情報共有、ビジネス活用。
多くの感情や意図がそこに渦巻く。

それらが矛先を誤れば、それは誰かにとって凶器となる。
ネット中傷

元々ネット中傷による事件は20年以上前から起きている。
スマイリーキクチ中傷被害事件|wikipedia

しかし、5月最終週に『テラスハウス』出演者の悲報をきっかけに、SNSでの誹謗中傷をめぐるニュースが飛び交い始めたことで、ついに政策が大きく動き始めた

高市総務大臣は、5月26日の記者会見「プロバイダ責任制限法」などを絡めてネット上の権利侵害情報の削除や、匿名の発信者の情報開示手続といった対策を講じると言及している。

それから、約3カ月が経った令和2年9月1日。

総務省から「インターネット上の誹謗中傷への対応に関する政策パッケージ」が公表された。具体的にはどのような内容がまとめられているのか。

政策パッケージ取りまとめの背景から読み解いていく。

なぜ政策パッケージが取りまとめられたのか?

SNSにおける誹謗中傷の過激化

繰り返しになるが、今回の政策パッケージの取りまとめには、インターネット上、特にSNSにおける誹謗中傷が過激化していることが背景にある。

2019年時点で、世界のSNSユーザー数は34億8,400万人と言われています。世界の約45%の人が使っている計算になる。

その中で、日本のSNSユーザーは2020年末に7,937万人(人口の約62%)になると言われている。そして、これらは短期間で急激に普及している。

日本で特にユーザーが多いSNSである、Facebookは2010年、Twitterは2011年に日本法人が設立されており、ここまで普及しているにも関わらず「ようやく10年」になる。

人が増えれば問題も増える。
SNSもその例に漏れない。

特定の個人に対して誹謗中傷のメッセージが集中的に浴びせられる「炎上」が頻繁に発生する状況となっているだけでなく、災害発生時や昨今の新型コロナウイルスの感染に関連してのデマの流布も社会的に大きな問題だ。

そして前述される今年の5月最終週を契機に政府では2つの研究会が動き始め、それぞれ8月に意見のとりまとめを行なった。「プラットフォームサービスに関する研究会」と「発信者情報開示の在り方に関する研究会」だ。

政策パッケージの前に、この各研究会のポイントを取り上げたい

「プラットフォームサービスに関する研究会」による「緊急提言」

まず「プラットフォームサービスに関する研究会」の「緊急提言」を見てみよう。

「匿名で気軽に書き込みができる」というインターネット空間の特性を誹謗中傷が多く発生する要因のひとつと捉え、以下の3つの視点から方策を検討すべきとされた。

※「インターネット上の誹謗中傷への対応の在り方に関する緊急提言(案)」を基に編集部にて制作

「発信者情報開示の在り方に関する研究会」における「中間とりまとめ」

次に「発信者情報開示の在り方に関する研究会」における「中間とりまとめ」を見てみよう。

現在の発信者情報開示制度にはさまざまな課題があること、そのために誹謗中傷等の際の被害者救済が円滑に行なわれていないことを指摘。

それを踏まえ、以下の5つの視点から検討を行なうことを求めた。

※「インターネット上の誹謗中傷への対応の在り方に関する緊急提言(案)」を基に編集部にて制作

総務省の政策パッケージ

具体的な4つの取り組み

上述の提言等を受けて、総務省がインターネット上の誹謗中傷に対して早急に対応すべき取り組みとしてまとめたのが、今回の政策パッケージだ。

この中で明らかにされている具体的な取り組み内容は、以下の4点

※総務省「インターネット上の誹謗中傷への対応に関する政策パッケージ」を基に編集部にて制作

中でも、「3.発信者情報開示に関する取組」と、「4.相談対応の充実に向けた連携と体制整備」 については、インターネット上の誹謗中傷に関する課題に対して比較的ダイレクトに講じられる取り組みだと言える。

この2つについて、更に詳細を見ていこう。

発信者情報開示に関する取組

現行の発信者情報開示制度の最大の課題は「発信者情報として開示できる情報の中身が不足している」ことだ。

元々、プロバイダ責任制限法で、これまで開示請求が可能な情報は「住所、氏名、メールアドレス、IPアドレス、タイムスタンプ」と定められている。

ところが、これらだけでは発信者の特定には不十分あり、実際に発信者の特定を行なう際に時間がかかったり、特定が困難になるなどの問題があった。

今回の「発信者情報開示に関する取組」では、今年の8月に、電話番号を開示請求の対象に追加したことが改めて明示された。これにより、デマや誹謗中傷などを行なった発信者の情報開示に係る手続きが円滑化されることになる。

情報開示の手続きを円滑化することには、請求する側(被害者側)の労力やコストを抑えるだけではなく、発信者の通信ログが消去される前に対処できるようになるという効果が期待できる。

電話番号の他、SNSなどの「ログイン型投稿」のサービスにおける誹謗中傷に対処すべく、ログイン時情報の開示についても制度化に向けた検討を行なうことや、プロバイダによる開示などの裁判外(任意)開示を促進するための取り組みを加速させることなどを明示した。

※総務省「インターネット上の誹謗中傷への対応に関する政策パッケージ」を基に編集部にて制作

相談対応の充実に向けた連携と体制整備

インターネット上の誹謗中傷に対しては、被害者からの相談に適切かつ十分な対応を行なうことが重要となる。

現在、総務省の支援事業として、違法・有害情報への対応に関するアドバイスや関連の情報提供等を行なう「違法・有害情報相談センター」が運営されているが、まずはここの体制強化を図ることも明示された。

これには、他の相談機関等との連携対応を充実化させていき、例えば一般社団法人セーファーインターネット協会が運営している「誹謗中傷ホットライン」との連携が検討されていくようだ。

インターネット上における誹謗中傷の被害者にならないために

インターネット上の誹謗中傷、特にSNSにおける特定の個人に対する集中的な誹謗中傷は、個人の尊厳を傷つけるだけではなく、場合によっては個人の生命そのものを脅かす危険なものだ。

それはすでに報じられている事件を見れば明白だ。

今回の政策パッケージは、そういった誹謗中傷が起きたときに、これまで以上に円滑に対応できるよう対策を講じることに主眼を置いて作られていると読み解ける。

しかし、根本的に必要なのは、インターネット上における誹謗中傷を「未然に」防止するための方策だ。

例えば誹謗中傷の書き込みを出来なくするといったことだ。実際に、Twitterは今年の8月から、ツイートへ返信できるアカウントをユーザーの意思で制限できる機能を追加した。

こうしたルールだけでなく、テクノロジーやアーキテクチャによる手段の模索により、新しいサービスが生まれてくることも期待される。
Yahoo!ニュースがコメント機能を続ける理由~1日投稿数14万件・健全な言論空間の創出に向けて~|yahoo

他にも、弁護士の徐東輝さんも、この具体的な解決方法として「見たくないものを見ない自由」の保障を提唱している。

こうした議論が今後進むだろう。

また、より根本的な観点からいえば、インターネットユーザーのICTリテラシー向上も必要不可欠であり、今回の政策パッケージでも、教育現場などでの啓発の強化が挙げられている。

ただ、古くは村八分やいじめ問題にも見られる「集団となった人間の凶暴性」や「義憤による制裁の正当化」といったことを、こうした取組だけですべて解決するというものではない。

インターネット上の誹謗中傷は、ヒト対インターネットではなく、私たち人間の問題だ。誰もがその「加害者」にも「被害者」にもなる
一時の感情に任せない行動を心がけたい。

(記事制作:小石原 誠、編集・デザイン:深山 周作)


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引用・出典

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