【3分解説】デジタルプラットフォーム新法

政府は2020年2月18日、特定の巨大IT企業に対し、契約条件を明確にするよう求める新法案「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律案」を閣議決定した。その後6月3日に可決され、すでに1年以内の施行が目指されている。

同法が施行されれば、アマゾンや楽天などの大手ネット通販企業は出店者との間で結ぶ契約内容は開示することが義務付けられ、国に定期的な報告が必要になる。

デジタルプラットフォーマーによる市場の寡占化が進む中、同法がどのようにサービス利用者である出店者の権利を保護していくのかを考えていこう。

新法制定の背景

デジタルプラットフォームは日々影響力を増しており、われわれ消費者に大きな利便性をもたらしている。一方で、市場が寡占状態の中、デジタルプラットフォーム提供者による不公平な取引などが問題視されてきた。

国会でもこうした指摘を受け、公正取引委員会は「デジタル・プラットフォーマーの取引慣行等に関する実態調査」を行い、政策的課題の把握に乗り出した。調査結果は2019年10月31日に公開されている。

同調査の結果、複数の課題が明らかになった。

例えば、同意なく規約が変更されて手数料を引き上げられる、悪質な返品であっても受入れを事実上強制される、特定のOSを開発した運営事業者以外のアプリストアの利用が制限されているなどの報告が上がっている。

今回の法案は、これらのデジタルプラットフォームの政策的課題を解決するべく、企業に契約の開示などを求め、市場を透明化させる狙いだ。

新法の目的とその対象

新法案の第3条では、法律の基本理念が語られている。条文によると、同法はデジタルプラットフォーム提供者が透明性・公正性を向上させる取組を自主的かつ積極的に行うことを基本とし、国の関与その他の規制を必要最小限のものとするとしている。

また、第4条では、特に取引の透明性・公正性を高める必要がある企業を「特定デジタルプラットフォーム(特定DPF)」として政令で定め、規律の対象とするとしている。特定デジタルプラットフォームに該当する主な基準は次の通りだ。

「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律案」(経産省)から制作

取引条件等の情報の開示が義務付けられる

同法の第5条と第6条では、デジタルプラットフォーマーとそれを利用する出店者との間の取引条件等の情報を開示することが義務付けられる。

具体的には、取引拒絶をする場合の判断基準、契約変更や契約に無い作業要請等を行う場合の内容と理由、特定デジタルプラットフォーム提供者が取得・使用するデータの内容や条件などが開示項目とされている。

これらについて開示されない場合は、勧告・公表、それでも正当な理由なく是正されない場合には措置命令がなされる。

自主的な手続き・体制の整備

同法の第7条と第8条では、デジタルプラットフォーム提供者に対して自主的な手続き・体制の整備を求める内容になっている。

まず、第7条では、経済産業大臣が定める指針を踏まえて手続き・体制の整備を行うことが求められる。指針の具体的な項目例としては、商品等提供利用者に適切な対応をするための体制整備、取引の公正さを確保するための手続きや体制の整備、紛争処理体制等の整備などがあげられている。

また、第8条では、第7条の手続きや整備に関して、特に必要な場合に限り、勧告・公表を行うとされている。

これらの手続き・体制の整備に関する規律はいずれもデジタルプラットフォーム提供者の自主性を尊重するスタンスで、法案の基本理念とも整合する内容だ。

運営状況のレポートとモニタリング・レビュー 

同法第9条では、特定デジタルプラットフォーム提供者の自己評価を付したレポートを経済産業大臣に対し毎年度提出することが義務付けられている。

レポートの内容は、①事業概要、②情報開示の状況、③運営における手続、体制の整備の状況、④紛争等の処理状況などで、レポートを受理した経済産業大臣は、特定デジタルプラットフォームの運営状況のレビューを行い、評価を公表する。

「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律案」(経産省)から制作

新法制定後の政府の動き

公正取引委員会の委員長に就任した古谷一之氏は、9月17日の記者会見で、デジタルプラットフォーム提供者に関して、「反競争的な行為に対しては厳正に対処していきたい」と述べた。新法案の施行を控え、競争政策を推進していく考えだ。

巨大IT反競争的行為は厳正対処(福井新聞)

また、政府は出店者を保護する動きも見せており、デジタルプラッフォームを利用する出店者がトラブルに遭った際の相談窓口を設ける。

巨大ITに出店 相談窓口(日本経済新聞)

新法施行を控え体制整備が急がれる企業

2020年9月10日、アマゾンジャパンが自社通販サイトでの値引き分の一部を出品者に求めるなどした問題で、同社は約20億円を返金することを認め、公正取引委員会は行政処分を見送った。

アマゾン、1400社に20億円返金 公取委は行政処分見送り(日本経済新聞)

アマゾンジャパンは設立以降、自社通販サイトで販売する商品の納入元業者に対し、値引き分の一部補填や過剰在庫の返品に応じさせたり、仕入れ価格の数%~10%の範囲で「ベースコープ(協賛金)」と呼ばれる支払いを求めていたとされる。

公正取引委員会はアマゾンジャパンのデジタルプラットフォーマーとしての地位を利用した「優越的地位の乱用」の疑いがあるとし、2018年に立ち入り検査をしていた。

同社は今後、協賛金割合を一律化すること、内容を明確化することなどを改善策としてまとめ、公正取引委員会に確約手続きが認められた。

アマゾンジャパンが進めた取引条件の明確化などは、まさにデジタルプラットフォーム新法に明文化された内容だ。

新法施行を控え、デジタルプラットフォーム提供者は現行の取引条件の明文化や情報開示などへの体制整備が急がれている。

新法は自主性を強調 果たして効力は

新法は第3条の基本理念からもわかるとおり、プラットフォーマーの自主性を重んじ国の関与を最小限にするとしている。しかし、これは言い換えれば強制力の弱い法律と言うこともできる。

例えば、第5条において、特定デジタルプラットフォームの提供者が出品者に対して、利用条件によらない取引を求める際には、プラットフォームを提供する条件を開示する必要があるとされている。

しかし、第5条の3、4項では、消費者の利益を害する場合は開示に必要がない旨が明記されている。

もし特定デジタルプラットフォームの提供者が「消費者の利益を損なうと判断した」との理由で開示を断ることができるのであれば、新法の効力は弱く、新法制定以前と変わらないのではないだろうか。

また、第9条に明記されているとおり、プラットフォーマーが経済産業省に対して提出する報告書内では体制整備や取り組みへの評価を記載することになっているが、これは第三者評価ではなくあくまで「自己評価」となっている。

つまり、政府による継続的な評価体制が確立されるように見えるが、評価については客観性のある体制を築けるとは言えないだろう。

実際に、新法の規律は抜け道が多くプラットフォマーに甘すぎるという意見もある。

デジタルプラットフォーム新法の実態は「プラットフォーマー振興法」だ(ダイアモンド・オンライン)

立場の強いプラットフォマーに対する規制なだけに、新法が強調する「自主性」が当事者をどこまで動かすのかは未知数なところがある。

施行後はプラットフォマーの動きとともに、開示の抜け道や評価体制の客観性についても引き続き中止する必要がありそうだ。

(記事制作:江連 良介、編集・デザイン:深山 周作)

引用・出典

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